テイク・ユア・ピル スマートドラッグの真実(2018)
Take Your Pills(2018)
監督:アリソン・クレイマン
評価:80点
Netflixドキュメンタリーは毎回クオリティの高いものが多く定期的に観るようにしている。最近アカデミー賞でNetflixオリジナルドキュメンタリーの『イカロス
』が長編ドキュメンタリー賞を受賞してから、尚更今後積極的に追っていかないといけないなーと思っている。そんな中、先日『テイク・ユア・ピル』という面白そうな作品が配信された。『イカロス』や『ヘロイン×ヘロイン』とNetflixが結構力を入れているドラッグ系ドキュメンタリーだ。町山智浩の話で時折小耳に挟む、ドラッグ依存のアメリカ社会。その真相に迫るドキュメンタリーだ。ありきたりな内容だと思ってみたら、非常に深い次元まで掘り下げられている傑作であった。
『テイク・ユア・ピル スマートドラッグの真実』概要
アデロール。アメリカではスマートドラッグとして、学生からスポーツ選手、プログラマーから大手金融会社の社員まで服用する薬物だ。何故アメリカがこうもドラッグ依存社会になったのか?過度に行きすぎた競争社会によるものであることが明らかになる一方、ADHDと密接な関わりがあった…スマートドラッグ史とADHD史の深い関わり
本作は一見、「ドラッグがアメリカで蔓延した理由は競争社会です」というユニークな切り口に欠けるドキュメンタリーに見える。しかし、本作はアデロールというスマートドラッグの蔓延からADD(注意欠陥障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)との関係性が見えてくるとてつもなく不気味でユニークな見解が展開されていた。
アメリカの過度な競争社会は今や幼少期の時代から始まっている。親は子どもに英才教育と称して習い事をさせたりする。一流の大学、一流の企業に入るために猛烈に勉強しないといけない。しかし、貧しい人にとって裕福層の環境は羨ましくてしょうがない。貧困層出身の学生はこう語る。
「アデロールはたった2ドルで、富裕層と並ぶことができる。アデロールは均等を生む。でも富裕層がアデロールを使ったら…もっと差が広がっちゃう。」
ジャブのような、貧富の格差、競争社会を映し出し、ひょっとスポーツ選手にフォーカスがあたる。彼はADHDと認定され、アデロールが正式に処方される。スポーツの世界において、ドラッグは禁止のはずでは?と思う。しかし、どうやら抜け道があるらしく、ADDやADHDの治療としてドラッグを使用するのは許されているのだ。そしてそのスポーツ選手と家族は「ADHDと認定されたぞ!!」と喜ぶ。ただ、これをみてゾッとした。君はADHDではないんじゃないのか?几帳面に写真とか並べているが、これは演技なのでは?と。
そしてだんだん明らかになってくる医療業界のADHD稼業が明らかになる。次々と患者をADHDと認定し、薬を処方することで儲かる仕組みがアメリカで構築されていたのだ。なので、確かに本当にADHDやADDだと思われる人も出てくるのだが、薬を貰う為だけにADHDになるという人もいるということに不快感を覚える。しかも厄介なことに、ADHDと偽る人は、家族ぐるみでADHDであろうとする。本人はADHDであることを信じているのだ。
ただ、ドキュメンタリーが進むと、もはや社会全体がADDやADHDなんだということに気づかされる。今やスマホ社会で、隙あらば皆SNSをいじってしまう。電車の中、食事中、友達との会話中でさえも。人々は膨大な情報の洪水に流されてしまうのだ。私も、最近、スマホはドラッグだと思い、週に何日かは会社にスマホを持っていかないようにしている。人々はスマホという便利なツールで持って集中力を失ったということが分かってくるのだ。
こうなってくると、ADHDやADDは自分が「何者」であるのかを示すものでしかなくなる。本当に、ADHDやADDで苦しんでいる人にとってたまったもんじゃないなと感じた。と同時に、ひょっとすると『男はつらいよ』の寅さんのように、何者であるのかをしらずに、多少の価値観の違いに戸惑いつつも生きた方が幸せなのかもしれない。
これは必見のドキュメンタリーだ。
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