【TIFF2017】「ナッシングウッドの王子」知られざるアフガニスタンB級映画の世界

ナッシングウッドの王子(2017)
NOTHINGWOOD(2017)

監督:ソニア・クロンルンド
出演:サリム・シャヒーン,ソニア・クロンルンドetc

評価:85点

今年の東京国際映画祭で一番期待していた作品を観た。その名も「ナッシングウッドの王子」。今年のカンヌ国際映画祭監督週間で上映されてシネフィルたちを驚かされた作品だ。シネフィルの間でもほとんど知られていないアフガニスタン映画の巨匠サリム・シャヒーンを、女性監督ソニア・クロンルンドが取材するといったもの。政治的に不安定で、下手すればお縄になってしまう危険なロケ。その先に見えるものは何か?日本公開はアップリンクあたりが頑張らない限り難しそうなだけに、観られて良かった。

「ナッシングウッドの王子」概要

アフガニスタンで100本以上のB級映画を撮る巨匠サリム・シャヒーン。政治的に不安定で、内戦やテロも頻発。撮影現場にロケット弾が撃ち込まれるのも日常茶飯事なこのアフガニスタンで30年間映画を撮り続けるわけとは?そしてサリム・シャヒーンが一般人から軍人、そしてテロリストにまで愛されるか?女性監督ソニア・クロンルンドの密着取材で明らかにされていく…

好きなことで生きていく

「好きなことで生きていく」

これはYoutuber界の合言葉だ。

しかしながら、アフガニスタンのサリム・シャヒーン(Salim Shaheen)程この言葉が合う者はいなかろう。アメリカのハリウッド、インドのボリウッド、近年注目株のナイジェリア・ノリウッド。世界には沢山の映画林があるが、アフガニスタンにも林がある。その名もナッシングウッド(映画を観ると現地語でベリウッドと言うらしい)。機材も映画会社もないからNOTHINGWOODだ。

そんなナッシングウッドで、アフガンのスピルバーグ、はたまたエドウッドと海外の映画人から呼ばれる男がサリム・シャヒーン(Salim Shaheen)だ。30年間、内戦で爆破テロがあろうと、ミサイルで死者が出ようと監督、脚本、出演し、B級映画を100本以上撮ってきた男だ。

本作はそんな彼をなんと、女性監督が取材したドキュメンタリー。

冒頭にも言ったが、サリムは好きなことで生きている。それも命をかけて。常に爆破で死ぬ恐怖と隣合わせ。しかし、彼は決してカメラを離さず、陽気に映画を撮る。若松孝二も天国で阿鼻驚嘆しているだろう、日によっては4作同時撮影をしているのだ。

そんな彼から滲み出る熱さに興奮されっぱなしだった。彼は「映画監督は貧しい者、弱い者の味方だろ!」とひとたび町へ出ようなら軍人さんも、テロリストも敬意を称されようと、決して傲慢にはならない。

映画の撮影中、いきなりカメラの前に出てきて熱唱&迫真のダンスをする。映画自体は、B級インド映画のようにくだらなく、決してアカデミー賞やカンヌ国際映画祭といった舞台に立てるような代物ではない。しかしながら、くだらない映画の中に、サリムの人生で経験してきた大変なこと。常に死と隣り合わせなアフガニスタンで生き延びる知恵をねじ込んでいく。そりゃ、アフガニスタンの人にとってサリムが英雄にならない訳がない。

口先だけ、イクゾ気合と叫んでいる某映画館の方とは違う。これぞ「好きなことで生きていく」こと。真のイクゾ気合だ!

ってことで、カンヌ映画祭の頃から観たい観たいと思っていた本作を観られて満足。矢田部さんに感謝な作品でした。

どうか、日本でも配給が決まって公開されますように…

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