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【TIFFネタバレ】『シェイプ・オブ・ウォーター』のミュージカル映画シーンについて考察

【TIFFネタバレ】『シェイプ・オブ・ウォーター』のミュージカル映画シーンについて考察

『シェイプ・オブ・ウォーター』を考察

昨日、東京国際映画祭で観たギレルモ・デル・トロ監督作にして金獅子賞受賞作『シェイプ・オブ・ウォーター』。ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞といえば、ラヴ・ディアスの4時間映画『立ち去った女』やベネズエラのLGBT映画『彼方から』、ソフィア・コッポラのデカダンスな幼少期時代を描いた『SOMEWHERE』などといった、社会派だったり深い真理ドラマだったりする作品が受賞する。

そんなヴェネチア国際映画祭の栄冠に立った『シェイプ・オブ・ウォーター』は一見すると、普通のよくあるファンタジー映画、ディズニーとかピクサーが、はたまたティム・バートンが造りそうな映画で、「なんでこれが金獅子賞なのか?」と思ってしまうかもしれない。

ブンブンもまさに、その一人で、面白いんだけれども、ヴェネチア国際映画祭やアカデミー賞を獲るような作品ではないのではと思ってしまった。ただ、家に帰り本作のことを反芻すると、映画の深く深いところに現代にも通じる強烈なメッセージ。オタク監督ならではの暗号で、トンデモないものを伝えようとしていることに気づかされました。

ってことでこの記事では、『シェイプ・オブ・ウォーター』の深部について解説/考察していきます。

※ネタバレなし記事「【TIFFネタバレなし】『シェイプ・オブ・ウォーター』金獅子受賞!デルトロが放つ聲の形」はコチラ

当然ながらネタバレ全開なので、観た人だけが読んで下さい。これから観る人の中で、本作を読んでしまった方は、、、ゼッタイに劇場で『シェイプ・オブ・ウォーター』を観て下さい(2018年3月1日公開)。ブンブンからのお願いです。

本作は『マイ・フェア・レディ』だ!

東京国際映画祭のトークショーで登壇者も指摘していたことだが、本作の下地には『大アマゾンの半魚人(Creature from the Black Lagoon)』と『マイ・フェア・レディ(My Fair Lady)』があります。『マイ・フェア・レディ』?と思った方もいるでしょう。実は主人公の聾唖者の名前はイライザ、そう『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘップバーン扮するヒロインの役名と一緒なのです。

『マイ・フェア・レディ』は言語学者の男が、下町訛りの激しいイライザに上品な英語を習得させようとする話。「言葉」で愛を育む物語だ。一方『シェイプ・オブ・ウォーター』では、イライザが「手話」を通じて半魚人と愛を育むのだ。愛の対話に、種族も言葉もいらないというツイストをまず利かせていると言える。

ミュージカル映画が非常に重要

本作では、劇中のあらゆるところに映画がちりばめられている。そもそもイライザの住む家の真下が、オペラ座のような映画館で、そこで『クレオパトラ』(?)かなんかか上映されている。そして、家のテレビでは終始ミュージカル映画や怪奇映画が上映されている。注目して欲しいのは、ミュージカル映画の使い方だ。

じっくり家のテレビを凝視していると、公民権運動に伴う黒人と警官の暴動が映し出されている。それをイライザと一緒に暮らすおじさんが、払いのけるかのようにミュージカル映画の放送へとチャンネルを切り替えているではありませんか!ハリウッドのミュージカル映画は元々、インドのミュージカル映画同様現実逃避のエンタメとしてハッテンしてきました。それこそ創世記の1930年代は世界恐慌でアメリカ国内も絶望的な雰囲気に包まれていました。

しかしながら、バズビー・バークレーの『ゴールド・ディガース』のように豪華絢爛で明るい作品が沢山量産されました。そして1940年代になると、PTSDになった兵士を癒やす為にハッピーエンドでこれまた美しいミュージカル映画が沢山作られました。

つまり、映画館の上に暮らすおじいさんと聾唖者のイライザは最初現実逃避をしているのだ。おじいさんは売れない画家で、以前務めていた会社もクビになり、哀しみに暮れている。厳しい現実を観ないようにとミュージカル映画にのめり込む。イライザも聾唖者故に起こる差別、もとい弱い女性として勤め先で底辺の仕事をやらされている苦痛。それを和らげるようにジェームズ・キャグニーやフレッド・アステア等のミュージカル映画にのめり込んでいるのです。

そんな二人が、半魚人というフィクションと出会うことで皮肉にも差別が横行する現実と向き合う話となっている。
ハンディキャップを背負った者たちが、力を合わせて社会に蔓延る蔑視の目と闘う熱いドラマとなっているのだ。

それこそタイトルにもなっている『シェイプ・オブ・ウォーター(=水の形)』は、偏見やレッテルといった「形」を作り出す社会構造からの脱却という意味、それとハンディキャップを背負う者が心の奥でモヤモヤとさせているものに形を与えていくといった意味を持っているのではないだろうか。

神話の意味

本作では、いくつか神話が登場する。これを知っておくとより一層楽しめる作品になっています。

まず劇中で何度も引用されるのが『士師記』にある『サムソンとデリラ』だ。サムソンは怪力な女たらし。そんなサムソンをデリラという悪女がそそのかし破滅させるという話だ。本作の悪役ストリックランドは度々この話をする。どうもこれが顔は怖いのだが、内心ビビリまくっているストリックランドの心情を語っているように見える。イライザやオクタビア・スペンサー扮するゼルダにをデリラに見立て、上手く利用できないかと思っていると同時に、最後にサムソンにあたる半魚人に殺されてしまうのではという恐怖も暗示しているように見える。

また、イライザの住む映画館の名前が『オルペウス(Orpheus)』なのだが、これはまさしくギリシア神話の『オルペウス』。イライザの最期を暗示しているといえる。『オルペウス』のクライマックスは、妻を失ったオルペウスが激昂するディオニューソスの策略で八つ裂きにされ、海に沈められるというもの。ストリックランドにイライザ共々銃殺された半魚人が復活し、彼女と共に海へと還るシーンは、『オルペウス』のラストに希望を与えた形だと言える。

最期に…

『シェイプ・オブ・ウォーター』はミュージカル映画や神話、コミックといったものを同列に配置し紡がれた愛のドラマです。オタク映画監督ならではの語り口で、抑圧からの解放。コンプレックスで見えなくなっていた現実からの脱却を描いた作品と言える。そう考えると、ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞も納得の深い映画と言えよう。

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