台湾生まれ日本語育ち(2016)
著者:温又柔(おんゆうじゅう)
我がチェ・ブンブンが所属する
リービ英雄ゼミで、
法政大学国際文化学部
第1期生で小説家の
温又柔が書いたエッセイ
「台湾生まれ日本語育ち」
を扱った。
台湾に生まれるものの、
3歳の時から東京に
家族で移り住み、
日本語で物事を考える
レベルまでネイティブ
になるものの、
台湾人のアイデンティティ
を保とうとする葛藤が
描かれたエッセイである。
以前、ゼミで李良枝「由煕(ユヒ)」
を扱った際、ゲストで
呼んでお話したところ、
凄く明るい方だったので、
正直びっくりな内容でした。
それでは、じっくり
解説をしていきます。
温又柔とは
温又柔は1980年、
台湾・台北生まれの方である。
3歳の時に、父親の仕事で
東京に家族ともに引っ越す。
高校時代から、
中国語を学び始め、
大学の進路を決める際に
先生から、
「温は、中国語に興味あるんだよな?」
と言われ、法政大学国際文化学部を
薦められ、見事第1期生として合格。
SAは中国・上海外国語大学に
行った。
留学後、川村湊ゼミに入り
小説の創作を始め、卒業間際の
2003年に
「とっておきの上海」を出版。
卒業後は法政大学大学院
国際文化専攻に進学。
リービ英雄、司修の下で
勉強に励む。
そして2009年
「好去好来歌」で
第33回すばる文学賞佳作を
獲り小説家デビューを果たす。
その後も、『来福の家』
を出版し、現在に至る。
本作は、第64回日本
エッセイスト・クラブ賞を
受賞した。
書評:3つの言語の狭間で
本書の中で、著者は
「我住在日語(私は日本語に住んでいます)」
と語っているように、
完全に日本語で物事を
考えている。
そして、母親が一向に
日本語が上手くならない。
「七時」を「ななじ」と
読むことに憤りを感じる
レベルにまでネイティブ
になっているのだが、
彼女のアイデンティティは
台湾語と中国語、そして日本語の
間で彷徨っている。
この葛藤が人によってはわかりにくい
かもしれないが、非常に
辛いことでもあります。
ブンブンも生まれつき、
話し方が独特で
生粋の日本人にも
関わらず「ガイジンだ」と
言われアイデンティティの
喪失に苦しむ。
つまり、自分の安心できる
居場所を常に探し続けなければ
ならない。究極的な言い方を
すると、常に寝場所を探す
ホームレスのような感じなのだ。
著者と話したことがあるが、
彼女は一見すると日本人に
見える。話し方もリービ英雄は
もちろん、正直ブンブン
よりも流暢でなめらかな日本語を
話す。なら、「田中」とか「高橋」
とかといった通称をつければ
いいのでは?
下手に外国人に見られ、
差別的対応をされずに済むのでは?
と思ったのだが、彼女は
「温又柔」という名前を貫き通した。
3歳から東京に住んだら、
台湾人としてのアイデンティティを
失ってしまうであろうに、
彼女は親戚や友人がドンドン
台湾語が上手くなってくるのに、
自分がドンドン下手になり
意思疎通が難しくなる
葛藤を踏んだせいか、
きちんと台湾人としての
意識を持っていたのだ!
時折、日本人と思い込み、
警察や周りの人から
の発言でハッと
自分の正体に気づかされる。
日本人と台湾人の
狭間を行き来する
苦悩を明るく、
わかりやすく
書いてあるので
あまり言葉や
アイデンティティを
意識しない人でも
すらすら読めます。
正直、李良枝や
リービ英雄に比べると
波瀾万丈な人生では
ないので、小説家として
彼らを超えることは
難しいとは思うのだが、
温さんの
今後の作家活動を
応援します!
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