【読書感想文】「ユリイカ バーチャルYouTuber特集号」

【読書感想文】「ユリイカ バーチャルYouTuber特集号」

哲学若手研究者フォーラムで山野弘樹さんがVTuberを哲学の領域から論じる「VTuberがVTuberとして現出するということ」が発表される。VTuber動画を観た時に感じる独特な感覚に惹き込まれて研究するようになった私にとって、非常に重要な講演だと思っておりここ数週間楽しみにしてきました。折角なので予習をしようと山野さんがオススメしていた「ユリイカ バーチャルYouTuber特集号」を購読してみました。VTuberはもちろん、YouTuberの動画についてアカデミックに論じられている文章と滅多に出会えない中、この本はユニークな論考が多く集まっており昼休みに夢中になって読みました。

いくつか興味深い論考があったので、3つの論考から軽く感想やアイデアを書き連ねていくとする。

輝夜月と仮想世界に!

ここでは輝夜月を中心に、VTuber、それを含めたアバターを「個人を拡張するツール」だと語っている。アニメのキャラクターとは違い、VTuberには人格がある。それにより実在性が生じていると語られている。VTuberが映画やアニメとは違った感覚を刺激する要因の本質をついたものといえる。見た目はアニメのキャラクターなのに、即興で生み出される会話。その中で、まるで学校の友達と話しているような感覚になる。フィクションだと思っていたら、現実だった。現実っぽい(=リアル)ではなく、現実であると突きつけられる感覚は、まさにそこに人格が存在していることと見た目のギャップにより生じるものだろう。それはVTuber登場前には中々経験できないものであった。強いて言うならば、ディズニーシーにあるタートルトークで同様の体験ができたぐらいであろう。そして、もし自分にコンプレックスがあり、自分が嫌いな人がアバターという仮面を被る。そして仮想世界に現実逃避しても、現実との乖離に苦しむであろうと語られている。確かにVTuberの動画を観ていると、設定は意識していても、そこで語られる言葉にはその人の性格が露骨に染み込んでいるといえる。曲芸のような会話、時に声色を変えて、時にパワーワードを挿入して語る演出。これは自己を偽ってやろうとすると負荷が高まり続かないと感じた。だからこそ、アバターと人格が強固に結びついていることがVTuberの特徴の一つだといえる。

バーチャル化する人の存在

本書は2018年に発行されているのだが、この時点で「ゆるキャラ」とVTuberの相性の良さについて言及されている。「数十万円かけてリアルの着ぐるみを作る代わりに、3DモデルにしてVTuberとしてネットマーケティングに注力するのもありだろう。」と書かれているのだ。実際はどうだったかと言えば、ピーナッツくんが2019年にゆるキャラグランプリで優勝。相方のぽんぽこさんと一緒に、仮想世界、パペット、着ぐるみを行き来しながら、ついにはワンマンライブをするようになった。ピーナッツくんはアニメ制作で生み出した様々なキャラクターに憑依し、人生に深い層を生み出し、それが唯一無二のVTuberへと昇華させたといえる。この先見の明ある記述に驚かされた。

バーチャルYouTuberの三つの身体

この論考では、映画業界におけるファスト映画摘発とVTuber界隈における切り抜き動画文化の差を考察する上で重要なキーワードがあった。それは「ファンプロダクト」である。VTuber界隈では、ファンアートが多数SNSで発信されている。それに併せて、VTuberは自分のファンアートを検索しやすいようにハッシュタグを設定していたりする。ファンアートの検索性が向上することで、VTuberとファンの関係だけでなくファン同士のコミュニティができてくる。VTuberが作り出す世界観を解釈して再構築する。行間を埋める。または、伝道師として魅力を伝えていく。その流れの上に切り抜き動画が立っている。実際に切り抜き動画を観ると、最後に「本編のリンクは概要欄にあります」と誘導するものが多い。あくまで、VTuberを盛り上げていく目的で作られているのだ。だから、切り抜き動画を著作権違反として取り締まることなく、共存する動きをVTuber界が取るのは「切り抜き動画を見る」→「自分(VTuber)のことを知ってもらえる」循環があるから。ファンプロダクトにおけるクリエイターとファンとの循環構造があるから成立しているといえる。

それを踏まえるとファスト映画はあくまで、視聴回数による収益を得ることが目的化している。ファスト動画は「映画を観た気にさせる」ため、実際に映画を観てもらえない弊害が発生する。利益を奪われ、循環構造もないので映画業界では取り締まりが行われたといえる。「映画を早送りで観る人たち」で、映画会社が率先してファスト映画を作るのはどうかと提案されていたが、これも危ないといえる。確かに『バーフバリ 王の凱旋』公開時に、前作のあらすじを5分でまとめた動画が作られた。これ自体は成功しているが、毎回行えることではない。例え、続編の映画を中心に映画会社が前作のあらすじを紹介するファスト映画を作ったところで、前作をフルで観る行動に繋がるのだろうか?あまり繋がらないだろう。循環に繋がらない。またファンプロダクトのように、ファンが考える自由な行間埋め、世界観の解釈はなく、映画会社の考える世界観を押し付けていることになる。

では、ゲームの実況界隈とゲーム会社が何故共存できているのか?これはまた別の機会で考察する必要がありそうだ。

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