考察

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【ネタバレ考察】『ヒノマルソウル』から観るプロパガンダ映画論、或いは想像したくない東京五輪

まず、1994年リレハンメルオリンピックでの場面。街中のディスプレイ前に群衆が集まる。その中で、原田雅彦(濱津隆之)は痛恨のミスで金メダルを逃す。群衆が、一斉にヤジを飛ばす。記者会見のシーンでは、必死に震えを押さえ込み苦笑いする原田に記者が圧をかける。このシークエンスにより、金メダル獲得がいかに日本にとって重要かが観る者に刷り込まれる。そして数分に一度「金メダル」という単語が発せられ、いく先々で金メダルが取れないことによる呪いを向けられる。この積み重ねにより、終盤誕生するパワーワード「ヒノマルソウル」に熱が宿る。

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【ネタバレ考察】『映画大好きポンポさん』映画とは時間のエンターテイメントだ!

杉谷庄吾【人間プラモ】の同名コミックを劇場アニメ化。大物映画プロデューサーの孫で自身もその才能を受け継いだポンポさんのもとで、製作アシスタントを務める映画通の青年ジーン。映画を撮ることに憧れながらも自分には無理だと諦めかけていたが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりの楽しさを知る。ある日、ジーンはポンポさんから新作映画「MEISTER」の脚本を渡される。伝説の俳優マーティンの復帰作でもあるその映画に監督として指名されたのは、なんとジーンだった。ポンポさんの目にとまった新人女優ナタリーをヒロインに迎え、波乱万丈の撮影がスタートするが……。「渇き。」の清水尋也が主人公ジーン役で声優に初挑戦。新人女優ナタリーを「犬鳴村」の大谷凜香、ポンポさんをテレビアニメ「スター☆トゥインクルプリキュア」の声優・小原好美がそれぞれ演じる。監督・脚本は「魔女っこ姉妹のヨヨとネネ」「劇場版『空の境界』第五章 矛盾螺旋」の平尾隆之。

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【ネタバレ考察】『アメリカン・ユートピア』デイヴィッド・バーン時の神殿

バークリーショットで机に座るデイヴィッド・バーンが映し出される。バークリーショットといえば、今やミュージカル映画のクリシェであり、多くの映画が盲目的に丸を形成するのだが、本作では中心に四角い机を配備し、視点の中心にプラスチックの脳みそが見えるように画を作り込んでいる。

1曲目は”Here”だ。鎖が光とともに迫り上がる。

「ここは情報が詰まっている領域」
「ここは滅多に使われない領域」

と脳みその部分を示しながら講義が始まる。脳内の自分の居場所を探す旅が提示され、このパフォーマンスの芯の一部が提示される。

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【ネタバレ考察】『SNS 少女たちの10日間』正義の闇に呑み込まれる者たち

『SNS 少女たちの10日間』である。本作はチェコでSNSを通じた児童虐待が横行していることに対して、監督が少女に見える役者を集めて実情を調査していく内容。3人の女優にスカイプのアカウントを作らせ、心理学者や児童保護センター局員、弁護士といった様々な専門家を配備した状態で、性的目的で迫ってくる男の実態を調査した。その結果、10日間で2,458人もの男たちが彼女たちにコンタクトを取ってきた。終いにはチェコの警察まで出動する騒動となった問題作だ。TwitterやFilmarksでの評判も高いので、あつぎのえいがかんkikiで観てきました。序盤までは強烈な映像のオンパレード、知っているようで知らなかった世界の提示に圧倒された。今年ベストに入るだろうと思った。しかしながら、段々と本ドキュメンタリーが犯した倫理的問題点があまりにも凶悪で一線を超えてしまっていることが気になり始め、評価できなくなってしまいました。本記事では、ネタバレありで本作の問題点について語っていく。かなり強烈な内容なので読む際はお気をつけください。

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【ネタバレ考察】『あのこは貴族』「普通」は普通ではないし視認できない

まず、榛原華子(門脇麦)の家庭から語るとしよう。タクシーでホテルにまで送迎される。次の場面では家族のホテル会食が捉えられる。皆、正装で厳かな雰囲気の中、洗練された手つきで料理を嗜む。毛皮を纏うことが世間では炎上に繋がることに対して、まるで野蛮人を追っ払うように嘲笑う。そこへ華子が到着し、婚約者と別れたことを告げる。すると、次の縁談話を持ちかけられる。貴族家庭特有の跡継ぎ、血統の面倒臭い話が空間を覆い尽くす。

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【超長尺映画】『ベルリン・アレクサンダープラッツ』シン・ベルリン・アレクサンダー広場

ブルハン・クルバニ監督は、ドイツに適応しようとしてアイデンティティが失われていくアフリカ人の肖像を荒々しく画面に打ち付けている。本作では、アンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウ、ガーナと様々なアフリカの国名が出てくる。しかし、それは表面的でその国の内部までは描かれない。本作に登場するドイツ人は、国名こそ知っているが最終的に「黒人」に収斂していき、雑にアフリカ人を扱っていく。主人公フランシス(ウェルケット・ブンゲ)は難民としてドイツに流れ着く。必死になってたどり着いたドイツに夢を抱き、少しでも幸せになろうとするが、ドイツ語はできない上に金もビザもないので、怪しげな労働に手を出さざる得なくなる。地の底にいるものにとって「真っ当な人間として生きる」ことは高嶺の花なのだ。そんな彼は、怪しげな男ラインホルト(アルブレヒト・シュッヘ)に惹かれていく。カルト教祖のように黒人の前に現れて電話番号を書いた札をばら撒く彼。明らかに怪しい男であるが、次第にフランシスは彼に取り込まれていき、危険な仕事に巻き込まれていくのだ。そしてドンドンと「真っ当な人間として生きる」ことから遠ざかっていく。代わりに、ドイツで生きる為にフランシスの名を捨て「フランツ」として生きるようになっていく。

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【Netflix・ネタバレ考察】『ミッチェル家とマシンの反乱』アニメにおいて「見る」ということ

『ミッチェル家とマシンの反乱』では、「見る」行為をとことん突き詰めた演出が魅力的な作品といえよう。例えば、我々がスマホやPCでSNSを見たり、動画を観たりする行為について考える。目の前に映っている世界は過去であったり、自分の今いる場所とは異なる為一歩引いたところから眺めていることでしょう。それをアニメで表現するとどうなるか、それは現実の写真であったり、3Gアニメに対してラフになったイラストだったりする。主人公ケイティ・ミッチェル(アビ・ジェイコブソン)から見て現実離れした世界は、実際の写真として提示される。2次元から3次元に積分することで、イメージはできるけれども自分の住んでいる次元とは異なる生活がそこで強調される。

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『るろうに剣心 最終章 The Final』ゼロ年代時代劇に愛を込めて空中分解

本作のテーマは、「過去の罪は償えるのか?」「恨みはいかにして浄化されるべきか?」である。剣心は善人ではあるが、過去に人斬りで大量殺戮を行なっている。人を殺したという事実は変わらない。降らせた血の雨の跡は拭い去ることができず、過去の亡霊のような存在として縁が現れるのだ。一方、縁は恨みを拭い去ることができない。暴力でしか痛みを拭い去ることができない状態になっている。それが目には目を、歯には歯をの戦争を巻き起こしてしまう。アクション面ばかり注目されがちだが、ドラマ面はコロナやパワハラ問題で憎悪と過去がしがらみとなって人々が傷つけ合っている今に通じるものがあるのです。