感想

2021映画

【MUBI】『UPPERCASE PRINT』プロパガンダの皮をひらいてとじて

チャウシェスク政権下で見つかった落書き。自由を求めるメッセージが込められたその落書きを巡って秘密警察は動き始め、若者Mugur Calinescuが殺されてしまう。それを、テレビ番組のようなステージの上で人々が再構築していく。話されることは物騒なことばかりなのに、そこで挿入される映像は子どもが「おかあさんといっしょ」のような空間の中でワイワイ遊んでいたり、経済成長しているアピールをするCM、軍隊や市民による集団行動だったりするのだ。つまり、表面的には国家として成功しているように見えて、その実情は市民の声を踏みにじっている。それをまるで、シールをひらいてとじる感覚で演劇パートとフッテージを交差させることによって辛辣に社会批判してみせるのだ。プロパガンダの再構築によって新たな社会批評の方法を模索している監督にセルゲイ・ロズニツァがいる。彼は『国葬』の中でスターリン時代のプロパガンダを再構築することによって、プロパガンダで封殺されて市民の痛みを強調していたが、『UPPERCASE PRINT』の場合、淡々と喋る役者の演技とプロパガンダが悪魔合体することによって、痛みが継承されていく過程まで描けていた。

サンクスシアター

【 #サンクスシアター 8 】『お嬢ちゃん』美人という仮面に封殺された者

主人公、みのり(萩原みのり)は観光地の甘味処でバイトする美人な大学生。しかしながら、彼女は目の前にある不条理には我慢できず、友人がチンピラに襲われようものならそのチンピラに噛み付く。コンパで、嫌な想いをしているのにそれをひた隠しにしてまたコンパに行こうとしている状況にも物申す。通常でなら、空気の読めない人として人間関係が絶たれて終わるのだが、彼女は「美人」という仮面をつけられているため、どんなに嫌なことを拒もうとしても粘着質に彼女をなだめることでその場に留めようとする。

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『DAU. New Man』初心者のための『DAU. Degeneration』

正直、『DAU. New Man』単体であれば非常に面白い作品だ。まさしく若松孝二の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のような理想を抱き、己の肉体を鍛錬する者たちがドンドン腐敗していき組織が破壊されて行く様子が生々しく描かれて行く。ソ連の閉塞感というものを捉えるには十分な作品であり、スキンヘッドの男マキシム(Maksim Martsinkevich)がX-MENに出てきそうな人体実験に励んだり、刑務所のような場所で格闘訓練をしたりする場面は視覚的面白さがある。男性的訓練が女=弱い存在に対して搾取して行く様子もよく描けている。その積み重ねが上手いので、終盤の破壊シーンに説得力が帯びていき、抑圧された世界に対する怒りの再現として傑作になっている。

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【ネタバレ】『フィッシング・ウィズ・ジョン』どうせ俺たちゃサグライフ

qp COLA a(@Na_Chos_)監督、(株)おくりバント社長 高山洋平(@takayamayohei1)主演で2020年コロナ禍から製作されているTwitter映画シリーズ第3弾『FISHだ!!JOE』。監督が「チェ・ブンブンに分からない映画ネタを仕込もう」と言うことで本作の骨格に『フィッシング・ウィズ・ジョン』が起用された。本作はジム・ジャームッシュ映画初期作品の常連ジョン・ルーリーが、毎回友人と一緒に釣りをするテレビシリーズだ。『FISHだ!!JOE』におけるサイケデリックな音楽や、拳銃でタイを仕留めようとする高山さんの姿はこの作品から来ている。ジム・ジャームッシュやウィレム・デフォー好きながらもこのシリーズは全く知らなかった。面白そうだったので取り寄せて観賞したのだが、とてつもなく狂った内容でした。

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『カポネ』黄昏のスカーフェイス

アル・カポネといえば、禁酒法時代に酒、売春、賭博で一大組織を作り上げた犯罪王だ。そんなアル・カポネの映画ときいたら、熱いドラマをイメージするだろう。しかしながら、『カポネ』ではひたすら情けないアル•カポネしか描かれていない。歴史に名を刻む人物であっても、情けない引き際はあると語ると同時に、本作ではジョシュ・トランクの陰鬱な精神状態が世界を侵食している。アル・カポネの話なのに、『バートン・フィンク』の世界に紛れ込んだジョシュ・トランク自身が見えてしまっている狂った映画なのだ。

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『北の橋』ドラゴンの滑り台とガチ喧嘩する女

パリのライオン像に向かって煽り運転するバチスト(パスカル・オジェ)、刑務所から出所し彷徨う女マリー(ビュル・オジエ)が激突する。ガール・ミーツ・ガールだ。何故か、マリーのことをストーカーし始めるバチスト。マリーには恋人がいるらしいのだが、彼は何かの陰謀と戦っているらしい。バチスとはその恋人のカバンを奪い、中から地図を見つける。ヘブライ語で描かれた目印、パリの地図にぐるぐると蜘蛛の巣状に張り巡らされたものを見て、これは双六だと妄想を膨らませる彼女たちは、地図を頼りにミッションをクリアしていく。