感想

2021映画

ジャック・リヴェット『ジャンヌ』2部作:男装という鎧

ブリュノ・デュモンのジャンヌ・ダルク映画『ジャネット』、『ジャンヌ』公開に併せ、ジャック・リヴェットの『ジャンヌ/愛と自由の天使』、『ジャンヌ/薔薇の十字架』を観た。ジャンヌ・ダルク最期の地であるルーアンで生まれたジャック・リヴェットは、長編デビュー作『パリはわれらのもの』でシャルル・ペギーの「Paris n’appartient à personne(パリは誰のものでもない)」という言葉を引用していることから、彼がジャンヌ・ダルク映画を撮ることは宿命だったといえる。ジャンヌ・ダルクは、ジョルジュ・メリエスに始まり、カール・テオドア・ドライヤー、ロベール・ブレッソン、リュック・ベッソンと様々な監督によって映画化されてきた。ジャック・リヴェットが放ったジャンヌ・ダルク映画は、神聖化された彼女を民話に落とし込むことによって普遍的な男性に抑圧される女性像を告発したものであった。

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【特集ブリュノ・デュモン】『カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇』自分はきっと正常である

『FRANCE』以外のブリュノ・デュモン映画として残っていた『カミーユ・クローデル ある天才彫刻家の悲劇』を観ました。カミーユ・クローデルといえば、オーギュスト・ロダンの愛人というイメージがあるが、本作はロダンと彼女、そしてローズとの三角関係ではなく、心の支えを失い統合失調症に陥った彼女の精神病院での生活を追った作品である。これが問題作であった。

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【特集ブリュノ・デュモン】『フランドル』地続きにある死と生

ブリュノ・デュモンが第59回カンヌ国際映画祭に出品しグランプリを受賞した『フランドル』を観ました。第59回カンヌ国際映画祭は激戦区となっており、『パンズ・ラビリンス』、『ファーストフード・ネイション』、『Climates/うつろいの季節』、『街のあかり』、『ボルベール〈帰郷〉』などと強豪が多い中、ミニマルな戦争映画である『フランドル』がグランプリ獲ったのは驚きである(パルムドールはケン・ローチ『麦の穂をゆらす風』)。DVDのパッケージからは激しい戦闘シーンを想起させるが、案の定ブリュノ・デュモン印に満ちた映画であった。

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【特集ブリュノ・デュモン】『アウトサイド・サタン』神の救いは悪魔の蜜

私が敬愛する監督ブリュノ・デュモン。ありがたいことに、ブリュノ・デュモンについて書く機会をいただいたので、今月はブリュノ・デュモン未見映画を観ることにした。2011年カイエ・デュ・シネマ年間ベストにて4位に輝いた『アウトサイド・サタン』に挑戦しました。これが私のオールタイムベスト級に大傑作でした。

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『MISS VIOLENCE』ギリシャの奇妙な波

2000年代後半からギリシャで同時多発的に生み出された、ミニマムで不穏な空気に政治や社会問題を封じ込めた作品群を海外の批評家はGreek Weird Waveと呼んでいる。日本ではヨルゴス・ランティモスの作品や『PITY ある不幸な男』がその流れにあると捉えてもらえればイメージしやすいだろう。

今回は国際的にGreek Weird Waveが注目されるきっかけの一つとなった『MISS VIOLENCE』を観賞しました。本作は、第70回ヴェネツィア国際映画祭にて監督賞(アレクサンドロス・アブラナス)と男優賞(テミス・パヌ)を受賞しました。日本ではほとんど紹介されることのなかった作品ですが、ヨルゴス・ランティモス映画好き必観の作品に仕上がっていました。

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【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『孤独な場所で』ファムファタールの対岸にいるDV男

以前、「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載作かと思って観賞した『危険な場所で』は違ったので、リベンジとして『孤独な場所で』を観てみました。ニコラス・レイといえば女性版西部劇として『大砂塵』を発表したことで有名だが、本作ではファムファタールを逆転させることで男性の暴力性を捉えた大傑作となってました。

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【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『デイヴィッド・ホルツマンの日記』元祖youtuberのイキり日記

「死ぬまでに観たい映画1001本」掲載の謎映画、結局本誌読んでもなんで重要なのかが分からないことが多いのですが、最近発売された遠山純生の「〈アメリカ映画史〉再構築 社会派ドキュメンタリーからブロックバスターまで」には『クール・ワールド』や『ワンダ』、『ブレージングサドル』といった作品の解説が載っておりフルマラソンの副読本として役に立っている。さて、今回は元祖フェイク・ドキュメンタリー、元祖youtuber映画として囁かれている『デイヴィッド・ホルツマンの日記』を観てみました。

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【フランス映画祭】『あなたが欲しいのはわたしだけ』マルグリット・デュラス ガチ勢の一人語り

2021年下半期、ようやく日本でもクレール・シモンへの注目が高まってきました。山形国際ドキュメンタリー映画祭で思春期の男女の家族や学校との関係の吐露を捉えた『若き孤独』が配信されると、今度はフランス映画祭でマルグリット・デュラスに関する劇映画『あなたが欲しいのはわたしだけ』が上映されることが決まった。アンスティチュ・フランセで『夢が作られる森』、DVDで『Le Concours』を観てからフランスのフレデリック・ワイズマンなのではと思っていたのですが、実は彼女は劇映画とドキュメンタリー行き来する監督。予習で観た『Sinon,oui』は子を持ちたがらない男に対して、「妊娠したかも」と主張する女性の話をクローズアップによる心理劇と時折挿入される美しく開放的な画の対比が特徴的な作品であった。