インランド・エンパイア(2006)
Inland Empire
監督:デイヴィッド・リンチ
出演:ローラ・ダーン、ジェレミー・アイアンズ、ハリー・ディーン・スタントンetc
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
デイヴィッド・リンチ最後の劇映画『インランド・エンパイア』がリバイバル上映された。中学時代に観た時には全くもって歯が立たなかったものの、今やリミナルスペースの概念が知られるようになり、自分自身、映画における夢の扱いは近年深堀りできている領域なのでリベンジしてみた。予想は的中し、今の自分にとっては創作意欲が掻き立てられるかつ理論としても秀逸な作品であった。
『インランド・エンパイア』あらすじ
鬼才デビッド・リンチが、「マルホランド・ドライブ」以来5年ぶりに手がけた長編作品。監督作としては、本作が最後の長編映画となった。
ポーランド映画「47」のリメイク作「暗い明日の空の上で」に主演することになった女優のニッキー。しかし次第に彼女は映画と現実の区別がつなくなり、劇中のストーリーに呼応するように、相手役の男優と私生活でも関係を持つようになる。やがて現実と虚構の境界線はあいまいになり、その先に不条理で混沌とした世界が広がっていく。
監督・脚本・撮影・音楽・編集をリンチ自身が担当。脚本は全体を完成させないまま、各撮影現場で思いついたシーンをその都度、撮影していくという独自の手法で製作され、リンチ本人にも完成形がどのようなものになるか分からなかったと語られている。主演のローラ・ダーンをはじめ、ジャスティン・セロー、ハリー・ディーン・スタントンらリンチ作品の常連が顔をそろえるほか、日本の女優・裕木奈江の出演も話題となった。
夢の中ではヒトの距離感がバグっている、故に我在り
部屋に老婆がやってくる。何故かオーディション結果を知っているのだが、映画の内容とはことなる状況を説明されローラ・ダーン演じる女優は困惑する。そして実際にオーディションの合格通知が届き、撮影が始まるのだが、不穏な音がする。これをきっかけに彼女は虚実曖昧な悪夢に投げ出されることとなる。本作はイメージとサウンドを通じた距離を通じて、不安を抱えた女優の心象世界を捉えている。彼女の観る世界の音は、他のメディアを介したような低音やノイズと至近距離で囁かれているようなASMR、絶叫が交錯している。また、映画は彼女の困惑した顔のクローズアップとリミナルスペース、ないし人の群れを波のように反復させる。彼女の声に確かに他者は反応するも、どこか距離がある感じを切り返しによって表現し、同じ空間にいながら心は同じ空間にいないことによる孤独が表象されている。実際の空間と移動に関しても、友人とのBBQと思しき風景が提示されるも、家に入るアクションはなく、ゾロゾロと部屋の中から楽器を持った人たちが現れ喧嘩を始める異変が眼前に広がる。ヴォイチェフ・イエジー・ハス『砂時計』のように、応接間を軸に空間は非ユークリッド的に繋がっており、仄暗い現実離れした空間もこの応接間へと結合している。その中で彼女は自分を認知する。目の前の世界は虚実曖昧で存在するかどうかはわからないが、自分が抱いている不安だけは真実である。こうしたデカルト「我思う、故に我在り」な世界が3時間続くのである。
そしてこれが何を意味するのか。それはハリウッドに潜む翳りであろう。女優は「妊娠した」と話す。しかし相手は「冗談だろ」と不満を溢す。暴力、売春婦たちの冷笑的な眼差しが彼女に襲い掛かり、やがてハリウッドの路上にホームレス同然棄てられる。後にハリウッドはハーヴェイ・ワインスタイン問題を中心に#METOO運動が白熱するわけだが、ひょっとするとデイヴィッド・リンチ監督はこのようなハリウッドの暗部を告発しようとしたのではないか、現に前作の『マルホランド・ドライブ』も女優がハリウッドの闇に飲まれていく話だった。実はハリウッドに幻滅していたのではと感じた。2










