SUPER HAPPY FOREVER(2024)
監督:五十嵐耕平
出演:佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠etc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
応用情報技術者試験が終わったのでようやく、五十嵐耕平新作『SUPER HAPPY FOREVER』を観ることができた。本作はダミアン・マニヴェルが制作に入っているだけあって、構造が『イサドラの子どもたち』の応用例となっている。3幕構成で、過去を継承していくものであり、第一部と第二部との間を長回しと空間の共有によって時空を超えて繋ぐなどテクニカルな描写が目立ち、レイキャビック映画祭で日本映画初の最高賞を受賞したのも納得の出来だった。そして、直感的には好きな映画である一方で非常に問題のある作品のようにも思えたので掘り下げていく。
『SUPER HAPPY FOREVER』あらすじ
「息を殺して」「泳ぎすぎた夜」で国際的にも注目を集めている俊英・五十嵐耕平監督が、海辺の町を舞台に忘れることのできない大切な時間を描いた、ひと夏の物語。
2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼なじみの佐野と宮田。そのホテルはまもなく閉館することになっており、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちは、ひと足早く退職日を迎えようとしている。佐野は、5年前にここで出会って恋に落ち、結婚した妻の凪を最近亡くしたばかり。妻との思い出に固執し、自暴自棄になる佐野の様子を見かねた宮田は、友人として助言をするものの、その言葉は佐野には届かない。2人は少ない言葉を交わしながら思い出の場所を巡り、5年前に凪が失くした赤い帽子を探すが……。
佐野役を「TOCKA タスカー」の佐野弘樹、宮田役を濱口竜介監督の「悪は存在しない」にも出演した宮田佳典、凪役を今泉力哉監督の「猫は逃げた」に主演して注目された山本奈衣瑠がそれぞれ演じた。「泳ぎすぎた夜」で共同監督を務めたダミアン・マニベルがプロデューサーとして参加し、日仏合作映画として製作された。第81回ベネチア国際映画祭ベニス・デイズ部門のオープニング作品に選出。
紛い物のスピリチュアルへの嫌悪と運命について
浜辺をやつれたように歩く男は、急に少年の帽子を指さして「これ、どこで拾いましたか?」と尋ねる。彼に電話がかかってくるも、それを海へと投げ捨てる。ホテルのフロントで「帽子を探しているんですと」語り、5年前の落とし物への執念を漂わせる。黒沢清映画に匹敵する、魂の抜けたような人間のようで対話不能な存在として漂う彼であったが、独りでここにいるわけではなかった。友人と共にこのリゾート地を満喫しているようだ。第一部では、開放的なリゾート地に相応しくないほどのハプニングが切り取られ、一瞬たりとも観客を安心させることはない。大浴場ですら人が突然倒れるのだから。やがて、陽の属性を持つ友人にも陰りが伝播する。船から降りると女に声を掛けられる。「奇遇ですね」と指輪を魅せられ、スピリチュアルなビジネスの香りが漂う。それを主人公・佐野が冷笑し場を凍り付かせる。
これはユニークな視点だろう。スピリチュアルに対し冷笑の姿勢を取りながらも自分自身は「運命」を信じる。自分自身がそのスタンスなので、世の中には同じ考えの人がいるんだと驚かされた。自分は人のオーラが見える。実際に会社で緑色のオーラをしていた人が突然、茶色のオーラをしており、変だなと思っていたら数日前に離婚していたみたいなことを沢山経験している。あまり霊とか運命とかは信じない方なのだが、こういうのが続くと信じざる得なくなる。一方で、インド旅行へ行ったときにガイドから執拗に恋愛観のことを訊かれ「あなたは気が下がっている、アーユルヴェーダを受けるべき、占いを受けるべき」と助言された時に強烈な嫌悪を抱いた。それは私にエメラルドを売るための紛い物のスピリチュアルだと。このような二律背反の宙づ吊りを見事に画として捉えたのが『SUPER HAPPY FOREVER』なのだ。本作が凄いのは、タクシーの運転手が幽霊の話をすると、酔いつぶれた佐野がキレだす場面。友人のビジネスに対する冷笑的態度の後にこれがあることで、スピリチュアルな話を嫌っているかの度合いが正式に定義されるのである。
ただ、これが第二部、第三部となってくると演出に疑問が生じてくる。タイトルがスピリチュアルビジネスの名前を表しているにもかかわらず、その要素が消滅してしまうのだ。赤い帽子を軸に運命の手繰り寄せをテクニカルに描くだけとなってしまって、第一部のような繊細な人間心理描写が希薄となってしまうのである。
スピリチュアルビジネスもベトナム人も作劇のコマとしてしか機能しないのはいかがなものかと感じた。『ナミビアの砂漠』もそうだが、今年の日本映画はテクニックはバキバキに決まっているも、脚本が竜頭蛇尾であったり弱かったりするように思える。それでもこういった作品が国際的に評価されているのを考えると、数年後が日本映画のゴールドラッシュだと思える。
※映画.comより画像引用