『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』アーカイブ素材は必ずしも実際に何が起こったかを語っているわけではなく、どのように語られたかについて多くを語っている

スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989(2024)
原題:Israel Palestina på svensk tv 1958-1989
英題:Israel Palestine on Swedish TV 1958-1989

監督:ヨーラン・ヒューゴ・オルソン

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第37回東京国際映画祭はドキュメンタリー映画が多く出品されている。その中で、興味深い作品があった。スウェーデンの国立テレビで放送されたイスラエル・パレスチナ問題の報道を集めて論じた作品『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』だ。監督のヨーラン・ヒューゴ・オルソンは『ブラックパワー・ミックステープ アメリカの光と影』でもテレビ局のフッテージを用いて歴史を語るドキュメンタリーを作っており、アーカイブ映画の文脈で重要な監督になりつつある。2018年にスウェーデンテレビのアーカイブに基づいたプロジェクト「May 68」に取り組んでいた際に、本作のアイデアを思いつき、監督は数千時間あるフッテージを抽出してスウェーデンから見るイスラエル・パレスチナ問題を捉えようとしたとのこと。3時間半に及ぶ内容であったが、非常に興味深い作品であった。

『スウェーデン・テレビ放送に見るイスラエル・パレスチナ 1958-1989』概要

30年間にわたってスウェーデンの国立テレビで放映された膨大なフッテージを編集し、イスラエル・パレスチナ問題の起源と推移を検証するドキュメンタリー。ヴェネチア映画祭で上映。

※第37回東京国際映画祭サイトより引用

アーカイブ素材は必ずしも実際に何が起こったかを語っているわけではなく、どのように語られたかについて多くを語っている

「アーカイブ素材は必ずしも実際に何が起こったかを語っているわけではなく、どのように語られたかについて多くを語っている」と監督が語っているように、本作はアーカイブ映画の本質的なところに迫る内容である。

ここ数十年でアーカイブ映像へのアクセス性が上がり、その時代の利から歴史を再考しようとする作品が出てくるようになった。ある意味、論文に近いようなもので、本作でも実際に図書館で資料を見つけて整理する感覚の疑似体験として、各映像にミニカードと文脈のナレーションがついている仕組みとなっている。

しかし、メディアとは政治的社会的文脈によって切り取られたものであり、所詮は事実を編集した真実に過ぎない。それを整理して並び替えたところで、歴史のすべてが明かされる訳ではないのだ。実際に、引用される映像にはプロパガンダじみたものもあるし、当時のスウェーデンとしての立ち回りがあるから客観的とは呼べないものもあったりする。しかし、どのように語られたかは紛れもない事実としてそこにある。

3時間半観たところで、イスラエル・パレスチナ問題が完全に分かる訳でもないし、このドキュメンタリーですべてが明かされる訳ではないのだが、歴史との向き合い方。映像メディアとの接し方をメタ的に学ぶことができる作品といえる。

個人的にはジャーナリスト志望の青年がアフリカで取材しようとしていることに対して「イスラエルに留まろうとは思いませんか?」と質問する場面が印象的である。ジャーナリストとしてイスラエルには重要な取材対象や調査項目があるのだが、自分がやりたいことを実現するには外へ行くしかないと語られており、人材が流出する状況の生々しさが現出した場面だと感じた。また、女性が選挙に行く場面もスウェーデンのテレビ放送だから撮られていた点も興味深かった。

本作は実はインタビュー記事も面白く、idaで監督がいくつか面白い情報を教えてくれている。例えば、スウェーデンには新しい映像媒体を格納しないと決めているフィルム専用の冷蔵庫があるらしく、そこに原本が保管されているとのこと。