『有りがたうさん』清水宏のシンプル・イズ・ザ・ベスト

有りがたうさん(1936)

監督:清水宏
出演:上原謙、桑野通子、築地まゆみ、二葉かほる、仲英之助etc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

無性に清水宏映画を観たくなったのでDVDを取り寄せて観た。シンプルなロードムービーでありながら複雑なショットを実装していく映画の勉強にふさわしい作品であった。

『有りがたうさん』あらすじ

川端康成の原作を清水宏監督が独特な演出力で映画化。“有りがたうさん”と呼ばれ愛されるバス運転手と乗客たちとの触れ合いと、その道中で繰り広げられる人間模様を、伊豆の自然美を背景に描く。

当時の日本映画界では画期的であった全編ロケーションでの撮影を敢行、日本の原風景をそのままに映し出した。

松竹より引用

清水宏のシンプル・イズ・ザ・ベスト

道ゆく人々が避けていくたびに「有りがとう」と言うもんだから有りがたうさんと呼ばれている運転手。彼の片道の旅をオールロケーションで描いていく。道で人々にすれ違うたびにお言付けを預かるもんだから、せっかちな紳士がムッとなる。それがツッコミとして機能し、人情溢れる旅が描かれる。

冒頭、彼がなぜ有りがたうさんと呼ばれるのかを、天丼ギャグのように様々な人の通過でもって描いていく。終いには動物にまで「ありがとう」と言うので説得力が増す。そして旅路では次から次へと人が乗っては降りていく。シンプルすぎて70分も持つのかと思っていたら、いきなり高度なショットを提示してくる。

例えば、出産の知らせを受けておじさんが去っていく場面。坂からバスに向かって人が降りてくる。乗客が振り向く。おっさんが坂に向かって去っていき、バスも立ち去る。バスの移動に併せて少年たちが走って向かってくる。奥行きを意識した対極の運動がここで描かれているのである。何気ない場面に見えて、複雑なショットだったりするのである。清水宏の作品は牧歌的でありながら、時にこうした面白いショットを提示してくるので侮れない監督といえよう。