『グレース』コーカサスを旅する移動映画館

グレース(2023)
GRACE

監督:イリヤ・ポボロツキー
出演:マリア・ルキャノヴァ、ジェラ・チタヴァ、エルダル・サフィカノフ、クセニャ・クテポワetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

ここ最近、カンヌ国際映画祭監督週間の作品から面白い映画がチラホラ出ている。おっさんが草野球しているだけなのに味わい深い『EEPHUS』や不思議な長回しでマジックリアリズムたる世界を描いた『黄色い繭の殻の中』など打率が良い。そんな中、試写で2024/10/19(土)よりシアター・イメージフォーラムより公開されるロシア映画『グレース』を観たのだが、初長編劇映画とは思えないほど洗練された撮影に圧倒された。映画制作会社TWENTY FIRST CITYが見つけ、『WANDA』や『ヒューマン・ポジション』など、女性心理を静かに見つめる作品を中心に配給しているクレプスキュール フィルムが配給協力として本作が公開される。試写で一足早く観たのでレビューをしていく。

『グレース』あらすじ

息の詰まるような停滞感に覆われたロシア辺境を舞台に、移動映画館で日銭を稼ぐ父親と思春期の不安を抱える娘の日常を描いたロードムービー。

ロシア南西部の辺境で、乾いた風が吹きつけるコーカサスの険しい山道。無愛想な目をした16歳の少女とその父親である寡黙な男は、錆びた赤いキャンピングカーで旅を続けながら移動映画館で生計を立てている。母親の不在が父娘の関係に影を落とし、車内には重苦しい沈黙が漂う。やがて2人は世界の果てのような荒廃した海辺の町にたどり着き、娘は終わりの見えない放浪生活から抜け出そうとある行動に出る。

ドキュメンタリー出身の新鋭イリヤ・ポボロツキーが東欧の民話をモチーフに監督・脚本を手がけ、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が本格化する直前の2021年秋に撮影を敢行。全編を通して陰鬱さの中に不思議な温かさを漂わせながら、ロシア辺境の大地と人々を独自の感性で描き出す。2023年・第76回カンヌ国際映画祭の監督週間に選出され、同年のカンヌ国際映画祭で上映された唯一のロシア映画となった。

映画.comより引用

コーカサスを旅する移動映画館

川で生理を洗い、トボトボと広大な土地を歩いていく。そして、バンへとたどり着き旅に出る。父と娘の流浪の旅。アンニュイな日常を娘はインスタントカメラで切り取っていく。撮られた写真はじんわりと遅効性をもって明確に輪郭を伴っていく。まるで、自分の中で鮮明に記憶が作られていくように。映画は長回しをメインとするのだが、その中で「どうやって撮った?編集した?」と唸るショットが飛び出してくる。たとえば、彼女が道中で見つけた女を撮影する場面。ガラス越しに写真を撮る彼女が映る。カメラが横にパンをしていく中で、今度は被写体が映り、そして彼女の顔のアップへと繋がってくるのだ。絵巻物のような地続きで時空を超えていくショットに感動した。

やがて、このバンは移動映画館であることが判明する。映画のない街に現れては機材を組み立て、上映する。集まった人にビールやスナックを売って日銭を稼いでいくのである。彼女は、父の代わりに上映作品のチェックや物販を行う。流浪の民として自由ではあるが、父に縛られており不自由である。そんなアンバランスさがある青年との出会いによって揺さぶられていく。

『旅芸人の記録』や『ミツバチのささやき』など、かつて日本で上映されていた、そして今や忘れ去られてしまったような質感に覆われた作品と出会って懐かしさを感じた。イリヤ・ポボロツキー監督の今後に期待である。