『すべての夜を思いだす』公共スペースで親密さが生まれる

すべての夜を思いだす(2022)

監督:清原惟
出演:兵藤公美、大場みなみ、見上愛、紅甘etc

評価:75点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

『わたしたちの家』の清原惟新作が公開されたので観てきた。本作はいわゆる団地映画である。彼女は『ひとつのバガテル』で、団地における公共スペースへ眼差しを向け、親密さが生まれる場所として定義した。これは、たかはしそうた監督『上飯田の話』にも通じる視点である。今回の『すべての夜を思いだす』は、『ひとつのバガテル』を拡張させたような質感を持った作品であった。

『すべての夜を思いだす』あらすじ

「わたしたちの家」で国内外から注目を集めた清原惟監督が、東京郊外の街・多摩ニュータウンを舞台に、世代の異なる3人の女性それぞれの“ある日”を温かいまなざしでつづったドラマ。

高度経済成長期とともに開発され、入居開始から50年が過ぎた多摩ニュータウン。太陽の光が降り注ぐなか、公園と団地がどこまでも続くかのようなこの街には、穏やかで豊かな時間が流れている。ある春の日。誕生日を迎えた知珠は友人から届いた引っ越しハガキを頼りに、ニュータウンの入り組んだ道を歩く。ガス検針員の早苗は早朝から行方不明になった老人を捜し、大学生の夏は亡き友人が撮った写真の引換券を持って友人の母に会いに行く。それぞれの理由で街の中を移動する3人の女性たちは、街に積もり重なる記憶に触れ、知らない誰かについて思いを巡らせる。

「ふきげんな過去」の兵藤公美が知珠、「小さな声で囁いて」の大場みなみが早苗、「レジェンド&バタフライ」の見上愛が夏を演じた。2023年・第73回ベルリン国際映画祭フォーラム部門出品。

映画.comより引用

公共スペースで親密さが生まれる

団地映画は、画一的に見える箱、とそこに押し込められる生活を関連させていくので、閉塞感や抑圧が全面に出る作品が多いように思える。『すべての夜を思いだす』は、団地における家を排し、終始公共スペースを中心とした物語を紡いでいく。その観点が慧眼であり、ハガキを頼りに団地へやってくるが中々会えない焦燥感、迷子の老人、そしてベランダ越しの対話によるほっこりとした空気感といったユニークな挿話を繋いでいく。群像劇としては、3人の交わりが少ないように思えるが、ひとつのショットを通じて着目する人物を切り替えていくところが面白かったりする。そして、何よりも迷子の老人を送り届ける挿話が素晴らしい。ガス検診の女が歩いていると老人を見つける。そこへアナウンスが響き渡る。段々と、目の前にいる老人のことであることが確定していく。恐る恐る話しかけると真っ当な老人であることがわかるが、微妙に話が噛み合わない。老人は、明らかに別の人の家に入ろうとして失敗している。正しい家に導こうとするのだが、老人の言及が再現され、誤った家に辿り着いてしまう。この微妙な時空間のズレは『わたしたちの家』に通じるものがあり、清原惟監督の職人業が光る場面であった。

※映画.comより画像引用