名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)(2024)
監督:永岡智佳
出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平etc
評価:20点
「ゼロの執行人」以降、『ワイルド・スピード』的ファミリー×アクション大作化している名探偵コナンシリーズ。最新作を観たのだが、これはコナンがドラえもんやクレヨンしんちゃんとは異なったスタイルを取っており、その歪さが限界になりつつあることを感じさせる作品であった。
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』あらすじ
大ヒットシリーズ「名探偵コナン」の劇場版27作目。「月下の奇術師」の異名を持つ怪盗キッドや、キッドとは因縁のある「西の高校生探偵」こと服部平次が登場し、北海道・函館を舞台に、謎に包まれた日本刀をめぐるミステリーが展開する。
北海道・函館にある斧江財閥の収蔵庫に、怪盗キッドからの予告状が届く。キッドの狙いは新選組副長・土方歳三にまつわる日本刀だったが、折しも函館で開催される剣道大会のため、服部平次やコナンも同地を訪れていた。平次はキッドの変装を見破り、追い詰めていく。時を同じくして、胸に十文字の切り傷がつけられた遺体が函館倉庫街で発見され、捜査線上には「死の商人」と呼ばれる日系アメリカ人の男の存在が浮上する。
北海道警捜査一課の刑事・川添善久役で北海道出身の大泉洋がゲスト声優出演。監督は「名探偵コナン 緋色の弾丸」「名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)」や人気アニメ「うたの☆プリンスさまっ♪」も手がける永岡智佳。
不気味なオトナ帝国の忍び寄り
そもそも名探偵コナンは「江戸川コナン 探偵さ」と申し訳程度に語っているが、そもそもミステリーであることをとうに放棄している。謎解きをしているというよりかは犯罪に至る過程を説明しているだけであって、観客に謎を解かせることは少しも想定していない。そのため、スクリューボールコメディ、あるいはアクション映画として観る必要がある。
そして、ここ数年の傾向だが、子ども向けであることを放棄しようとしている問題がある。ツッコミどころよりも本作が深刻なのは、いつの間にかオトナ帝国になっており、子どもの存在を場外へ追いやったことにある。
初期の頃は、「頭脳は大人、身体は子ども」という江戸川コナンを媒介に少年探偵団が子どもながら大人の事情にコミットしていくクレヨンしんちゃんにおける春日部防衛隊の要素を持っていた。また、子ども映画の定石である参加型クイズも丁寧に行われていた。
しかしながら、近年は形骸化しており、阿笠博士のクイズは観客に解かせる気がなく、数秒で答えにシフトしてしまうものが多かった。コナンで育った人が大人になり、再ターゲティングを行った結果、大人サイドのカップリング、声優の関係性に力点を置く必要が出てきたからであろう。その末期状況が本作である。というのも、後半30分まで少年探偵団は蚊帳の外に放置されており、かつ阿笠博士のクイズはついに二択、解答時間0秒にまで追いやられているのだ。むしろ廃止にした方がいいレベルの雑さ、お決まりだから仕方なく入れている感が伝わってきて悲しくなった。子どもに誠実ではないと感じたからだ。この子どもが蚊帳の外に追いやられる感覚こそ「オトナ帝国」そのものである。
一般的に現実のオトナ帝国は、ゴジラやウルトラマンなど、幼少期に親しんできたコンテンツが、当時の質感を持ってリメイクされていくことだと思っていたのだが、かつての子ども向けコンテンツが長い連続の中でいつしか「オトナ帝国」になるパターンがコナンだといえよう。
もうひとつ、本作が「オトナ帝国」である理由として冒頭のあらすじ紹介描写が簡略化されている点にある。劇場版コナンが唯一無二の優秀な点として、必ず江戸川コナンの背景を説明する点にある。これは一見さんを世界観に引き込む役割以上に「初めてコナンに接する子どもたち」のための設計となっている。ただ、今回の場合はエフェクトの中に過去場面が隠されてしまい、実質セリフでのみ理解させようとする不親切設計に変更されているのだ。これもまた悲しくなった要因である。
そして、上記のことを脇に置き、アクション映画としてみた際に良いかと訊かれたら、あまりにも粗末だ。群れのアクションが描かれているが、一対一の関係性に陥りがちで、群れと群れとの連続性、アクションの持続が行われてない。終盤の、木刀を使った乱戦も平面的に処理されており、ジョン・フォード『静かなる男』のようなわちゃわちゃの豊かさが起きる予感を匂わせながら未遂に終わる。津田健次郎の出番を増やすだけに謎のキャラクターを登場させる唐突さもあり、無理がある映画となっていた。
コナン映画は「ゼロの執行人」以降、路線変更を図り成功はしているが、一方で限界に来ているのだろうと感じた。果たして、今後どうなってしまうのか?私は不安である。
※映画.comより画像引用