『記憶の棘』ジョナサン・グレイザーの外しテオレマもの

記憶の棘(2004)
Birth

監督:ジョナサン・グレイザー
出演:ニコール・キッドマン、キャメロン・ブライト、ダニー・ヒューストン、ローレン・バコールetc

評価:50点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『関心領域』公開に併せ、ジョナサン・グレイザーの『記憶の棘』を再鑑賞した。前回、観た時は退屈でよく分からない映画のイメージが強かったが果たして今回はどうなのだろうか?

『記憶の棘』あらすじ

ニコール・キッドマン主演、ニューヨークのアッパー・イースト・サイドで暮らす美しい未亡人アナが再婚直前、夫の生まれ変わりと告げる10歳の少年に出会い苦悩する、切ない愛のミステリー。二コールと互角の演技で圧倒させる少年ショーンに、「X-MEN/ファイナル・ディシジョン」のキャメロン・ブライトが扮する。監督はレディオヘッド、ジャミロクワイのPVで知られるビジュアリスト、ジョナサン・グレイザー。

映画.comより引用

ジョナサン・グレイザーの外しテオレマもの

ジョナサン・グレイザーは一貫してジャンル映画のフレームを用いつつ、外してくる。『セクシー・ビースト』ではフィルム・ノワールを、『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』ではSF映画を、そして『関心領域』ではナチスものの定石を外してくる。では『記憶の棘』では、何を外してくるのだろうか。今となっては、その答えを出すのは容易だ。「テオレマ」もの、つまり「家侵入」である。

ある日、亡くなった夫の生まれ変わりだと語る少年がデカダンスのような暮らしをする家族の前に現れる。ニコール・キッドマン演じる、ヒロインはその少年に段々と惹かれていく。アレクサンドル・デスプラの得体の知れない重低音が響き渡る中、坊主頭の少年が一切表情を変えずに迫ってくる様子は、今で言うところのA24映画っぽさがある。

一般的にテオレマものは、侵入者の手によって破壊がもたらされる、あるいは対決による撃退が描かれるのだが、本作は突然結末を迎えるスタイルを取っており、観客を置き去りにしていく。今までの意味ありげな持続はなんだったんだよと怒り出す人もいるだろう、そして執拗なデスプラのサウンドが手数の少なさを誤魔化しているように観え、退屈に感じるかもしれない。個人的に本作が厄介なのは、邦題が退屈さを助長させていたといえる。つまりある種の本質的なネタバレとなっているのだ。

喪失を抱える者は過去の記憶に囚われている。過去に起きたことは事実であり無表情だ。しかし、過去と対峙した時に心は揺さぶられる。その体験を象徴しているのが「あの少年」といえるのだ。なので、過去と折り合いをつけた時点で少年が去っていくのは妥当といえる。折り合いをつける話なので完全な崩壊もなければ、完全な撃退もない。宙吊りであることが重要なのである。テオレマものとしては珍しい着地ではあるが、そこには理論が詰まっている。しかし、邦題がそれを見事に言い当ててしまっているので、味気なさがある。これが本作を厄介なものにしているのであった。
※映画.comより画像引用