【アカデミー賞】『実録 マリウポリの20日間』名前なんかないわよ、放っておいて!

実録 マリウポリの20日間(2023)
20 Days in Mariupol

監督:ムスチスラフ・チェルノフ

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第96回アカデミー賞国際長編ドキュメンタリー賞にノミネートされたロシアのウクライナ侵攻リポート。日本ではNHKの世界のドキュメンタリーで2回に分けて放送されていた。観逃してしまったので、別ルートで鑑賞することにした。

『実録 マリウポリの20日間』概要

取材班は、通信が困難な中でも市内の惨状の映像をAP通信編集部に送り続けた。爆撃を受けた産科病棟では赤ちゃんを抱いた母親が泣き叫び、腹部から出血している妊婦が運び出される。やがてロシア軍の戦車が市内に進攻し、取材班はウクライナ軍の援護で脱出することに。行くあてのない市民を残し、複雑な思いを胸に記者たちは銃撃の中を走った… 

NHKより引用

名前なんかないわよ、放っておいて!

タイトル通り、マリウポリに取材班が潜入した20日間を追った内容である。国際的にアクチュアルな問題なので、アカデミー賞ノミネートも当然であり、他のラインナップを考慮しても今回は本作が受賞まで行くと思われる。

映画は、マリウポリを逃げ惑うおばさんにカメラを向ける。

「名前を教えてください」

「名前なんかないわよ、放っておいて!」

と叫び去っていく、その後ろをついて行く夫だろうか、中指をカメラに向ける。取材なんか受けるどころではないのだ。遺体を埋めようとする男に取材すると、今にも涙が溢れそうな様子で言葉を選んでいる。

ゆっくりマリウポリの凄惨さを世界に伝えるために腰を据えるような人はほとんどいない。気がつけば数百メートル先に戦車がいて、集合住宅が破壊される。死がもたらされる状況でそれを語る余裕がないのである。

紛争や戦争のドキュメンタリーでは、凄惨さを語る人が登場するが、本作ではそれができない状況を捉える。報道映像として使えそうにないようなものだが、それを余すことなく起用することで現実で起きている問題を捉えようとしており、そのアプローチが興味深かった。