【ヴィタリー・カネフスキー特集】『動くな、死ね、甦れ!』秩序と混沌のサラダボウルの中で

動くな、死ね、甦れ!(1989)
Замри, умри, воскресни!

監督:ヴィターリー・カネフスキー
出演:パーヴェル・ナザーロフ、ディナーラ・ドルカーロワ、エレーナ・ポポワetc

評価:80点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2024年最初はヴィタリー・カネフスキーBOXから初めた。数年前に『動くな、死ね、甦れ!』を観た時には、今ひとつピンと来なかったのだが、『ひとりで生きる』『ぼくら、20世紀の子供たち』があまりに強烈すぎたので、その勢いで再鑑賞した。すると新たな発見があり面白く感じたのであった。

『動くな、死ね、甦れ!』あらすじ

旧ソ連出身のビターリー・カネフスキー監督が自身の少年時代の記憶をもとに、収容所地帯の町で暮らす少年少女の過酷な運命を鮮烈かつ叙情あふれるタッチで描き、当時54歳にして第43回カンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した青春ドラマ。第2次世界大戦直後のソ連。強制収容所地帯となった小さな炭鉱町スーチャンで暮らす12歳の少年ワレルカは、シングルマザーの母親への反抗心から悪戯を繰り返していた。同じ年の少女ガリーヤはいつもワレルカのことを気にかけており、彼が窮地に立たされると守護天使のように現われて助けてくれる。そんなある日、度を越した悪戯で機関車を転覆させてしまったワレルカは、逮捕を恐れて1人で町を飛び出す。2017年、世界の名作を上映する企画「the アートシアター」の第2弾作品としてリバイバル公開。

映画.comより引用

秩序と混沌のサラダボウルの中で

「みんな、準備はいいか?」

「スタート!」

監督の声と共に仄暗いトンネルからゾロゾロと人々が現れる。ネグレクトを受けている少年ワレルカはチャイを売り歩き日銭を稼いでいる。ライバルには「ゴキブリが入っているぜ」とガチトーンの中に悪ガキらしくニカっと笑みを交えながら煽り立てる。混沌とした日常が描かれるのだが、ただの混沌とは違う。たとえば学校のシーンに注目してほしい。学校周辺では隊列が行進している。その周りを少年たちが喧嘩しながら突き進む。その中で汚水が垂れ流されており、先生がキレている。秩序の中に混沌が降り混ざっているのだ。タイトルが静止(=動くな)、静的運動(=死ね)、動的運動(=甦れ)と全く異なる運動を同時に並べる矛盾となっているわけだが、その理由が実際に画として提示されていく。これによりワレリカの無軌道な人生の轍に生命力を与えるのである。

映画はカンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞したのも納得なほど多彩なギョッとするショットが過剰積載となっている。配給バトルに敗北したおっさんが、粉を分けてもらいトボトボと歩く。その後ろを少年少女がついていく。明らかに強奪またはイジメを仕掛けようとしているのだが、突然おっさんが地面に粉を撒き散らし、泥パンを作り出して食べ始める。その眼光の異様な鋭さに少年少女は凍りつく。この意表を突くカウンターは、画面を貫通し観客にまで刺さるものとなっている。

列車からは人が犬に噛まれ強制的に突き落とされ、銃声が鳴る。フクロウとワレルカが戦うのだが、至近距離に炎を向けられても動じない。ヴィターリー・カネフスキーのとっ散らかった演出は『ひとりで生きる』にて磨かれる。ソ連社会の混沌の本質により迫っているので個人的には『ひとりで生きる』に軍配が挙がったのであった。