お受験(1999)
監督:滝田洋二郎
出演:矢沢永吉、田中裕子、西村雅彦、大平奈津美、大杉漣、岸部一徳、余貴美子、永島敏行、もたいまさこ、徳井優etc
評価:80点
Amazon Prime Videoでは日本映画が充実している。漁っていたら、なんと矢沢永吉主演作『お受験』を見つけた。監督は『おくりびと』の滝田洋二郎。意外なマリアージュなので観てみたら、これが面白かった。
『お受験』あらすじ
ひとり娘の真結美の私立小学校へのお受験を控えた富樫家。主人の富樫真澄は健美食品の陸上部に所属する実業団マラソンランナー。妻の利恵は、真結美のお受験に燃える専業主婦だ。ある日、真澄は役員待遇で子会社への出向を命じられるが、そのとたん本社の債務を押しつけられて倒産。真澄は職を失ってしまう。だが、真澄にとっては、実業団ランナーとして湘南マラソンに出場できなくなることが重大だった。
矢沢永吉主演の異色作
矢沢永吉といえば、カリスマ性ギラついているロック歌手のイメージが強い。本作はそのイメージを微妙にズラしているのだが、これが大胆な風刺劇に反して繊細であった。彼は食品メーカーで働くサラリーマン役。仕事をしつつも実業団マラソンランナーとして自信たっぷりに生きていた。ただ、そこからは既に「陽キャラである程度仕事はできるが、役員候補にはならないだろう。」といった空気感が流れている。というのも、彼は家事育児を妻に任せっぱなしにしているのだが、その妻の暴走に対して口出しもできなければ、寄り添うこともできていないのだ。
例えば、仲間を家に連れ込む場面。娘がちゃんと挨拶できないことにブチギレ、妻はビンタをぶちかます。娘は、ロボットのように死んだ目で高度な構文を語る。異様な光景なのに、矢沢永吉は気まずい顔をしながらスルーするのだ。
意外と意見を言ったり議論ができない人物であることが分かる。なので、出向も明らかにハメられているし、嫌な空気が漂っているのにホイホイ乗ってしまい、失業してしまう。これによりただの哀愁漂うおじさんに成り下がるのだが、ここではライブでギラつかせる「矢沢永吉」としてのオーラは消失している。このように空気感を作っていった結果、終盤のマラソンシーンが熱い。このシーン自体はある意味ビックリ展開なのだが『フレンチ・コネクション2』さながらの熱量を持っている。
肩書きを失った状態なので、知り合いに塩対応されるも、狼狽えることなく走る。ライバルもいる。脳裏にはある葛藤がこびりついている。長い道中の中で決断し、壮絶な道を走り出すのだ。この場面は何度も観たくなった。
Amazon Prime Videoの日本映画は掘り甲斐があるなと思ったのであった。
※映画.comより画像引用