ある映画のための覚書(2022)
NOTES FOR A FILM
監督:イグナシオ・アグエロ
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2023コンペティション作品の『ある映画のための覚書』を観た。イグナシオ・アグエロ監督といえば『100人の子供たちが列車を待っている』で知られている。本作では、映画を知らぬ子どもたちに『ラ・シオタ駅への列車の到着』と『父、パードレ・パドローネ』を観せて映画作りをさせる展開が印象的であった。今回もユニークな手法が取られていた。
『ある映画のための覚書』あらすじ
19世紀、チリの一部となったばかりの先住民族マプチェの土地アラウカニア。鉄道建設の技師としてギュスターヴ・ヴェルニオリーがベルギーから赴任した。監督は、彼の日記を基に俳優を配して足跡を辿り、往時の冒険を回想する。スタッフ、監督自身が時間軸を超えてフレームの中と外を自在に行き交いつつ、鉄道遺構、風景、人々の間を往還する映画の試みは、同時に、植民地化の深い傷跡が残るマプチェ・コミュニティで続く土地闘争を描き出す。本作は、アラウカニアの土地の記憶と現在に生きる個々人の経験を等しく見つめることで、ひいては世界と映画に対する新しいアプローチを実践している。
ん?山手線??
『ある映画のための覚書』とタイトルにある通り、実験的手法を取り入れた作品となっている。鉄道建設の技師としてベルギーからアラウカニアにやってきたギュスターヴ・ヴェルニオリーの足取りを白黒で心象世界と再現映像を交差させたように撮る。しかし、油断していると突然山手線の車窓を映した映像が流れる。アラウカニアとどのように関係しているのかと困惑する。だが、『ラ・シオタ駅への列車の到着』を引用したことで面白い映像哲学が垣間見える。アラウカニアの鉄道と山手線という地理的距離と現在と『ラ・シオタ駅への列車の到着』を紐付ける時間的距離を提示することによって、ギュスターヴ・ヴェルニオリーの足取りを立体的に追っていることを表現していると分析しているとみれるのだ。確かに、資料を読み込み足取りを追うことは地理的運動と時間的運動を組み合わせたものである。それをサクッと映像の挿入で語ってしまう。イグナシオ・アグエロ監督の技術力の高さに感銘を受けた。もちろん、映像も旅や冒険に対するロマンに溢れており、『イントゥ・ザ・ワイルド』系の映画が好きな方におすすめの一本となっている。