『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』1年半の休館、その裏で行われたものとは?

わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏(2023)

監督:大墻敦

評価:75点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

世界遺産検定マイスター試験が目前に控えている。マイスター試験は今までとは違い、全て記述となっている。鬼門は大問3で、これは1,200字で論述する必要がある。前回大会では富士山の登山鉄道計画について世界遺産としての価値を高めるアイデアを求められた。このように常に世界遺産情報にアンテナを張って引き出しを用意していないと太刀打ちできない問題が出題されるのだ。直前なので、2016年に世界遺産登録された上野の国立西洋美術館を行ってきた。これは、ル・コルビュジエが1955年に設計図を作り、弟子の前川國男、板倉準三、吉阪隆正がプロジェクトの中心となり1959年に建設された美術館である。ル・コルビュジエが打ち立てた近代建築の五原則のひとつであるピロティが特徴的な建物は、実業家である松方幸次郎の「松方コレクション」を所蔵する美術館として機能している。先日、初めて訪れたのだが、そのラインナップの充実度は凄まじく、モネ「睡蓮」に始まりシニャック「サン=トロぺの港」、ロダン「考える人」と美術に関心がある人なら一度は本で目にしたことのある作品がずらりと並んでいたのだ。そんな国立西洋美術館は2020/10/19から2022/4/8の間、館内施設整備のため長期休館となった。その時、中で何が行われたのか?

7/15(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて公開される『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』にてその全貌が明らかとなる。今回、映画配給会社マジックアワーさんのご厚意で一足早く鑑賞させていただいた。感想を書いていく。

【レポート】世界遺産・国立西洋美術館に行ってきた話▼
https://note.com/chebunbun/n/ne4e92bbfa4ad

『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』あらすじ

20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエが設計し、2016年に世界文化遺産に登録された、東京・上野の国立西洋美術館の舞台裏を描いたドキュメンタリー。

1959年にフランス政府から日本へ寄贈返還された「松方コレクション」を基礎に、彫刻、版画、素描など約6000点の作品を所蔵する国立西洋美術館。20年10月、ル・コルビュジエが構想した創建時の姿に近づける整備のため休館となった同館の内部にカメラが入り、1年半の長期間にわたる取材を敢行。モネの「睡蓮」やロダンの「考える人」といった数々の所蔵品を紹介するほか、「美」を守り伝えることに尽力する美術館スタッフの多岐にわたる活動を記録。館長やキュレーター、美術関係者へのインタビューからは、日本の文化行政が抱える難問や美術館が抱える危機的状況があぶり出される。

監督は、永青文庫「春画展」の内幕を描いたドキュメンタリー「春画と日本人」などを手がけた大墻敦。

映画.comより引用

1年半の休館、その裏で行われたものとは?

今回の館内施設整備の中心となったのは「前庭」の作り直しであった。国立西洋美術館の前庭の下には特別展の会場がある。天井部分は防水加工がされているが25年ぐらい経っているため、改修する必要があった。また、世界遺産に登録された際の努力目標として「前庭」をル・コルビュジエが考える本来のものに戻す必要があった。世界遺産登録には真正性が重要視されている。これは文化遺産が持つ、伝統や建築技法、思想が正しく継承されているかを表す概念だが、国立西洋美術館の「前庭」は真正性の観点で問題があったのだ。映画はそんな大規模な工事の現場を追う。

外の彫刻ひとつとっても、複雑に絡み合う土台を分析し、パズルを解くようにパーツの外し方を吟味する。また、館内の所蔵品をどのように魅せるのかを学芸員同士がディスカッションしながら決めていく。さらに、長期休館中であることを活かして国内外に作品を貸し出す取り組みも行う。膨大な作業を20名程度の学芸員や研究者で行う。

取材の中で、日本の美術界の予算不足問題も浮き彫りになる。昔から新聞社とコラボを組み、展覧会を行なってきた。税金で運用されているので、購入、レンタルする美術品が適切であるか緊張が走る。特にコロナ禍では現地に行って確認することができなかったため、写真で判断しないといけず、学芸員の緊張感は非常に高いものとなっていたそうだ。確かに、美術品をどのように魅せるかは重要だ。映画のサブスクリプションサービスもそうだが、そこにあるだけでは機能しない。届くべき人に、どのような作品があるかが伝わってこそ見てもらえる。正直、国立西洋美術館に行って初めてモネ「睡蓮」やシニャック「サン=トロぺの港」、ロダン「考える人」が所蔵されていることを知った。特にシニャックの絵は好みだったため、もう少し早く知りたかったと思ってしまった。

普段、見ることのできない美術館の裏側で情熱持って試行錯誤するプロフェッショナルの流儀に心踊らされたのであった。

7/15(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて公開。