青いカフタンの仕立て屋(2022)
原題:Le bleu du caftan
英題:The Blue Caftan
監督:マリヤム・トゥザニ
出演:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ブルキナファソで開催されるアフリカ最大の映画祭FESPACO2023(ワガドゥグ全アフリカ映画祭)にて最優秀脚本賞を獲ったモロッコ映画”Le bleu du caftan”が邦題『青いカフタンの仕立て屋』で2023/6/16(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開が決定した。本作はカンヌ国際映画祭でも「ある視点部門」国際批評家連盟賞を受賞している。監督のマリヤム・トゥザニは長編デビュー作『モロッコ、彼女たちの朝』にて、未婚の妊婦というイスラム社会のタブーに斬り込んだ物語を描いた。『青いカフタンの仕立て屋』ではモロッコの伝統衣装「カフタン」の仕立て屋目線から、モロッコ社会の息苦しさを描いていた。ロングライドさんのご厚意で一足早く観たので感想を書いていく。
『青いカフタンの仕立て屋』あらすじ
「モロッコ、彼女たちの朝」のマリヤム・トゥザニ監督が、モロッコの伝統衣装カフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦の愛と決断を描いたヒューマンドラマ。
海沿いの街サレの路地裏で、母から娘へと受け継がれるカフタンドレスの仕立て屋を営む夫婦ハリムとミナ。ハリムは伝統を守る仕事を愛しながらも、自分自身は伝統からはじかれた存在であることに苦悩していた。ミナはそんな夫を理解し支え続けてきたが、病に侵され余命わずかとなってしまう。そんな彼らの前にユーセフという若い職人が現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。ミナの死期が迫る中、夫婦はある決断をする。
「灼熱の魂」のルブナ・アザバルが妻ミナ、「迷子の警察音楽隊」のサーレフ・バクリが夫ハリムを演じた。2022年・第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。
丁寧に丁寧に丁寧に編み込むと
本作は「手」の映画である。カメラは、カフタンの模様を編み込むハリム(サーレフ・バクリ)の手つきに着目する。金色の繊細に編み込まれた小さな丸状の模様に針を刺して繋いでいく。その手つきは、ゆったりとしている。現代社会、オフィスでキーボードを爆速で叩きながら仕事をする風景とは異なり、じっくり時間をかけて服に魂を宿していく。そんな仕立て屋に弟子がやってくる。ユーセフ(アイユーブ・ミシウィ)は不慣れな手つきで、布の裁断を行う。やったことがない作業に不安を抱き、プルプル震えながら裁断する手を、ハリムは優しくつかみ誘導する。
本作は悪い人は出てこないが、ヒリヒリする人間関係が垣間見える。例えば、客が「もっと早くできないの?」と煽りを入れてくる。モロッコ社会も欧米同様に効率化の流れが来ているのだろうか?時間に余裕がなくなってきているのだろうか?煽り始める。また、外では警察官が立っており、職務質問される。そして、丁寧に生きようとするハリムの孤独が強調されている場面が定期的に現れる。
ハリムの生き様は、単に伝統を重んじ、職人として丁寧さを追求するだけではないことが段々と分かっていくのだ。職人の手つきの運動と、モロッコ社会を結びつけ、丁寧に生きざる得ない境遇を捉えていくマリヤム・トゥザニ監督の演出に惹きこまれたのであった。
2023/6/16(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
参考資料
・Fespaco 2023: the Golden Stallion for “Ashkal” by Youssef Chebbi
※映画.comより画像引用