鉄西区(2003)
監督:ワン・ビン
評価:90点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第76回カンヌ国際映画祭に中国を代表とするドキュメンタリー監督ワン・ビンの作品が2本選出されている。コンペティション部門の『Jeunesse』は、繊維工場を舞台にした3時間越えの作品。SCREENDAILYによれば、本作はトリロジーの第一作目とのこと。繊維工場を捉えた作品としては『苦い銭』、『15 Hours』があるがここで扱ったテーマをさらに掘り下げた視点が期待できる。さて、そんなワン・ビンの代表作『鉄西区』を久しぶりに観た。中学時代、WOWOWで放送されていて衝撃を受けた作品。中国の工業地帯が寂れていく切なさは中学時代の私に刺さった。ドキュメンタリー映画の魅力を教えてくれた作品である。ワン・ビン映画を一通り触れてから、観直すと新しい発見が多い作品であった。
『鉄西区』概要
「無言歌」(2010)のワン・ビン監督が、時代とともに衰退していった中国の重工業地帯・瀋陽の鉄西区を総計9時間にわたる3部作として記録したドキュメンタリー「鉄西区」の第1部。日本占領中の満州・奉天に設立され、後に20世紀中国の重要な重工業地帯となるが、時代の変遷とともにかつての繁栄を失っていく鉄西区。そこにある3つの工場にカメラを入れ、事故や鉛中毒といった危険をも受け入れて働いてきた労働者たちが、近く閉鎖される工場で暇を持て余している様子や、経営が行き詰まり民営化に頭を悩ませる国営工場管理陣たちの姿をとらえた。山形国際ドキュメンタリー映画祭2003で3部作が上映され、大賞を受賞。13年、ワン・ビン監督作「三姉妹 雲南の子」(12)の日本公開にあわせて劇場初公開。
廃墟になるまで残り9時間
狭い通りを汽車がゆっくりゆっくりと進む。やがて工場へと辿り着く。第二次世界大戦中、日本占領時代に作られた工場は中国共産党の戦略によって巨大工業地帯へと発展していった。しかし、1990年代に入ると、経営が行き詰まり閉鎖していく工場が増えていった。本作は、一つの工業地帯が衰退していくまでの過程を現場視点で描いていく。衰退とは、一瞬ではなく時間がかかるものだ。人々の苦しみも、時間をかけて醸造されていく。そう簡単に、撤退することも、逃げることもできず、静かに終わっていくのだ。第一部では、工場の活動について迫っていく。労働者が活発に作業をする。事故が発生すると、「おい、爆発するぞ!カメラは近づくな!」と声を荒げる。従業員がなんとか事態を収めようとする。仕事中において従業員は、目の前のタスクに集中するのだ。ワン・ビンは従業員の本音を引き出そうと、控室や食事に注目する。これは後の彼の作品でも一貫した眼差しである。控室では、労働者が愚痴をこぼしている。低賃金だったり、給料未払いの問題、仕事がなく自宅待機を余儀なくされている実態が浮き彫りとなっているのだ。
第二部になると、次々と工業地帯が閉鎖されていく。行き場のない人々は、移住するかその場に残るかの決断を迫られる。会社から金は出るのか?鉛中毒に対する治癒といった負の運動がカメラに収められていく。
第三部になると、もはや廃墟となった場所で細々と活動している労働者たちのどこか諦めたような顔が収められていく。
YouTubeで調べると、いろんな企業の栄枯盛衰が数十分で語られる動画がたくさん見つかる。しかし、そういった動画では描かれないような、長い時間かけていって人々の心が折れていくような情景、活気がなくなっていくような空間が捉えられていく。ワン・ビンは、超長尺を通じて観る者に当事者のいる空間の空気感を強制的に体感させていく。パワフルな作家であった。
ちなみに本作は当初5時間の作品としてベルリン国際映画祭フォーラム部門に出品されたが、ロッテルダム映画祭関係者の目に止まり、資金援助を受けて9時間の作品に仕上がったとのこと。
参考資料
・Pyramide seals deals on Cannes Competition title ‘Last Summer’; boards Wang Bing trilogy (exclusive)