『BLUE GIANT』情熱激る青き炎

BLUE GIANT(2023)

監督:立川譲
出演:山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音etc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

私はミリシラなアニメ映画を観るのが好きだ。そこに新しい発見があるからだ。今までにも『映画 けいおん!』や『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 2nd A’s』、『THE FIRST SLAM DUNK』と原作漫画やアニメを観ていない作品の映画版に触れて、あまりの衝撃に年間ベストに入れたことがある。今回、上半期ベストに入りそうな作品に出会った。その名も『BLUE GIANT』だ。ビッグコミックで掲載されていた石塚真一の漫画のアニメ映画だ。ジャズをテーマにした漫画ぐらいしか知らなかったし、公開日になって映画の存在を知ったのだが、ポスターヴィジュアルを観て興味が湧いたので挑戦してみた。これが王道の友情、努力、勝利の物語ながらも感情揺さぶられる物語であった。

『BLUE GIANT』あらすじ

2013年から小学館「ビッグコミック」にて連載開始した石塚真一の人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」をアニメ映画化。

仙台に暮らす高校生・宮本大はジャズに魅了され、毎日ひとり河原でテナーサックスを吹き続けてきた。卒業と同時に上京した彼は、高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込む。ある日、ライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と出会った大は彼をバンドに誘い、大に感化されてドラムを始めた玉田も加わり3人組バンド「JASS」を結成。楽譜も読めずただひたすらに全力で吹いてきた大と、幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈、そして初心者の玉田は、日本最高のジャズクラブに出演して日本のジャズシーンを変えることを目標に、必死に活動を続けていく。

主人公・宮本大の声を人気俳優の山田裕貴が担当し、沢辺雪祈を間宮祥太朗、玉田俊二を岡山天音が演じる。「名探偵コナン ゼロの執行人」の立川譲が監督、原作の担当編集者でストーリーディレクターも務めるNUMBER 8が脚本を手がけ、「幼女戦記」シリーズのNUTがアニメーション制作を担当。世界的ピアニストの上原ひろみが音楽を手がけ、劇中曲の演奏も担当した。

映画.comより引用

情熱激る青き炎

今の時代、SNSを見渡せば、人間離れした上位存在の姿が簡単に見つかってしまい、「自分の努力って意味があるのか?」と落胆してしまいがちな世界。「好きだから続ける」が難しくなり、「タイパ」至上主義に陥る世の中において、王道の友情、努力、勝利の物語は我々の心に刺さるものであろう。その尊さと現実ではもはや貴重なものとなってしまったドラマに感動する。それだけに、王道にあぐらをかくことなく正面から向き合った作品は、今までに映画を何千本も観てきた私でも心の琴線に触れる。

本作の主人公・宮本大(山田裕貴)は仙台でひとり、ひたすらジャズに打ち込んでいた。やがて上京する。友人・玉田俊二(岡山天音)の家に転がり込む。あてもロクにないまま、イケイケどんどんバーへ行き、ジャズをやらせてくれる場所を探す。そんな中、ヒールなピアニスト・沢辺雪祈(間宮祥太朗)と出会いバンドを組むこととなる。なんと、音楽未経験の玉田もドラム担当として参加し、日本最高峰のクラブでライブできるよう奮闘する。

通常であれば、全く成功する兆しのないトリオだ。ナルシストなピアニストに、勢い任せのテナーサックス。セッションに食らいつくのに必死なドラム。果たして会費1万円、キャパ200席埋める場で演奏はできるのだろうか。しかし、そんな観客の疑問に対して宮本はポジティブさで押し切る。彼の説明は常に抽象的だ。具体的な音楽用語も出てこない。沢辺に披露する最初の音色は荒々しく、独りよがりに見える。それでも前に進み続けることで、メンバーの音色が纏まっていくのだ。冷笑をひたすらへし折るアクションは、バンド初心者である玉田から情熱を引き出し、時間があればドラムに向かうような人間へと成長させていく。また、おじさんミュージシャンに毒づく沢辺の弱さを発見するきっかけを見出す。4歳の頃からずっとピアノに打ち込んできた彼。ある程度うまい旋律を奏でられるが、今となっては小手先のものとなってしまっている。ジャズとは一回生のセッション。その場の空気、感情を音に乗せることが重要で、その自由さに身を任せる限り、どこまでも行ける。

絶望的な時代においてここまで希望を魅せてくるのだ。いざ、演奏シーンになると、アニメ的自由さを活かして、音のイメージが回想と重なり合い、ふとカメラが捉えるグラスに男たちの物語が映り込む。音に合わせて、カットを刻み、時が伸びるように彼らの指が、肉体が引き伸ばされる。音に没入する、自分の感情に向き合う豊穣な時間に観客も沈められる。そして、この映画では最初のライブから心を奪われて陰から応援する存在がくっきりと映り込んでいる。そんな彼らと同じ目線で3人の活躍を応援したくなるのだ。

これは観てよかった。ミリシラでも問題ない作品であった。

※映画.comより画像引用