アントマン&ワスプ クアントマニア(2023)
Ant-Man and the Wasp: Quantumania
監督:ペイトン・リード
出演:ポール・ラッド、エヴァンジェリン・リリー、マイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファー、ジョナサン・メイジャーズ、キャスリン・ニュートン、ビル・マーレイetc
評価:30点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
MCUは『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降、燃え尽きてしまってあまり観賞意欲が湧かないのだが、『アントマン』シリーズの最新作が来るとなると話は別だ。CGが発達し、人間の身体がアニメのように伸び縮みする。そこにアクション性を求めるこのシリーズに魅力を感じている。映像史における、身体の伸び縮みに関しては「不思議の国のアリス」の映画化や特撮映画で確認することができる。その中でも『アントマン』シリーズが画期的なところは、サイズ変化のスピードが異様に速いところにある。小さくなることで周りの時間がゆっくりになる。しかし、アクション自体は速い。また巨大化すると、ゆったりとした動きをみせる。その変化を瞬間的に行う。それを、通常サイズの人の眼差しから捉えることによって下から殴られたような動きが観測できる。このサイズ変化による運動を映像で実現できたことは映画史にとって重要な意味を持っていると思う。さて、シリーズ3作目は量子世界を舞台にしていると聞く。あらすじや予告編を観る限り、『アントマン』映画におけるサイズ差による面白さを出しにくい題材のように思える。実際に観てみると非常に残念な作品であった。
『アントマン&ワスプ クアントマニア』あらすじ
「アベンジャーズ」をはじめとしたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を構成する人気作品のひとつ、「アントマン」のシリーズ第3弾。未知の量子世界に入り込んだアントマンやワスプが、アベンジャーズの新たな脅威となる存在、カーンと遭遇する。
「アベンジャーズ エンドゲーム」では量子世界を使ったタイムスリップの可能性に気づき、アベンジャーズとサノスの最終決戦に向けて重要な役割を果たしたアントマンことスコット・ラング。ある時、実験中の事故によりホープや娘のキャシーらとともに量子世界に引きずり込まれてしまったスコットは、誰も到達したことがなかった想像を超えたその世界で、あのサノスをも超越する、すべてを征服するという謎の男カーンと出会う。
体長1.5センチの世界最小のヒーロー、アントマンことスコット・ラング役にポール・ラッド、アントマンのパートナーとして戦うワスプことホープ・ヴァン・ダイン役のエバンジェリン・リリーをはじめ、マイケル・ダグラス、ミシェル・ファイファーらおなじみのキャストが集結。スコットの愛娘で大人に成長したキャシー役を「ザ・スイッチ」「名探偵ピカチュウ」のキャスリン・ニュートン、謎の男カーンを「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」のジョナサン・メジャースが演じる。シリーズ前2作「アントマン」「アントマン&ワスプ」を手がけたペイトン・リードが今作でもメガホンをとった。
サイズが変化するだけ、ただそれだけ
本作は面白くなる要素が沢山あるにもかかわらず、ことごとく活用できていない映画であった。まずスコット・ラング軍団は、家族ぐるみで研究者。なので、量子世界に飛ばされたとしても、絶望することなく知的好奇心あるがままに、自分の研究と現実を突き合わせて突破口を導こうとしている。ジャネット・ヴァン・ダイン(ミシェル・ファイファー)は何十年も量子世界にいたこともあり、原住民に囲まれても臆することなく対話を行う。娘も、特殊スーツを着て勇猛果敢に量子世界の危機を救おうとする。絶望的な世界において、「絶望」知らずな家族たちが大暴れする物語は必要だと思う。一方で、サイズが極限まで小さくなったことによる恐怖が全く描かれていない。カーンと対峙する際も、基本的に対等なサイズでしか行われないので、例えば、小さくなった状態でスーツが故障し、その前に強大な敵カーンが立ち塞がるみたいな絶望感がないのだ。サイズ差は単に破壊を象徴するものではなく、心理的関係性を象徴するものでもある。『縮みゆく人間』では、サイズ差が広がったことで存在から見放される状況が描かれている。これは単に恐怖の描写として描かれていないから本作は微妙だと言いたいわけではない。ひとつ、面白い表現ができたはずなのに勿体無い場面がある。それは、娘キャシー(キャスリン・ニュートン)が、量子世界の旅を通じて成長する場面だ。縮小しかできなかった彼女が巨大化をマスターし、中ボスを倒す。そして父と巨大化したまま抱擁する場面がある。父は娘に対して「普通の人生を送ってほしい」と言っていた。そして彼女のスーツによるアクションを下にみていた。そんな彼女が成長した瞬間を目の当たりにする場面である。「想像以上に成長した愛娘」を表象するならば、父よりも少し大きく巨大化させる。そして抱擁しようとした時に、「あれっ?デカくね?」といった反応を父がするといった描写が必要だと感じた。しかも父スコット・ラング(ポール・ラッド)が巨大化して戦う場面に全く運動がなくて、活躍しているように見えなかったのも痛いところである。
また、今回の宿敵カーン(ジョナサン・メジャース)がただのマッチョなおじさんにしか見えなかったのも厳しいところである。原作のことは知らないが、時間を支配する男ならば、アントマンたちの攻撃を先読みして回避するような挙動をする気がする。また、シュレディンガーの猫、可能性の分岐を使って、追い詰めることも可能だろう。単に軍団を率いて拳で戦っているようにしか見えず、「こいつ強いのか?」と思ってしまった。
最後に、量子世界の民が『スター・ウォーズ』に出てくるクリーチャーの二番煎じに見えてしまったこと。得体の知れない種族=アマゾンやアフリカの部族といった方程式に当てはめているような気がしたのがよくなかった。せっかく、人間が知る物理法則を超越した量子世界なのだがら、物理学なクリーチャーで固めるべきなのに、人間の形をした、それも部族的な存在が結構いて、それはどうかと思った。もうそろそろ、欧米の知らない=アフリカやアマゾンの部族的存在といった方程式から卒業する必要がある気がする。
ということで、『アントマン&ワスプ クアントマニア』は随分と期待外れな内容となってしまった。
※映画.comより画像引用