主人公(1966)
Nayak
監督:サタジット・レイ
出演:Uttam Kumar,Sharmila Tagore,Bireswar Sen etc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
国立映画アーカイブにて開催中の特集「アカデミー・フィルム・アーカイブ 映画コレクション」にてサタジット・レイの”Nayak”が邦題『主人公』として上映された。サタジット・レイに強いMUBIでも配信されていない作品なので観てきた。
『主人公』あらすじ
映画賞授賞式に向かう列車の中、人気スターのムケルジは自らの過去を省みる。主役を演じるウットム・クマル本人のスター性も取り込み、人気俳優となった男が抱える不安や葛藤を実験的な構成で語る意欲作。サタジット・レイ監督は1992 年にアカデミー賞名誉賞を受賞。AFAは本作や「オプー三部作」など同監督作品の復元・保存を数多く手がけている。
※国立映画アーカイブサイトより引用
映画がコケたら奈落行き
人気スターのムケルジが映画賞授賞式に向かう途中に回想し、内なる闇と対峙する内容。明らかにイングマール・ベルイマン『野いちご』まんまなのだが、サタジット・レイの直接的な苦悩描写と悪魔的描写の交差が独特な心地よさを与える。彼にはシャンカール・ダーというメンター的存在がいる。彼は政治活動に励み、ムケルジが映画業界に行くことを強く拒んでいる。「たとえ1本成功しても、次で失敗したら奈落行きだぞ!」。この言葉は、ムケルジを縛り、名声を得ていたとしても悪夢として浮かび上がる。本作では、札束の山に溺れていく悪夢表現として描かれている。くしゃくしゃの紙を纏ったような不気味な男の手を、まるで藁にしがみつくように伸ばす様はベルイマン的演出を継承しているといえる。
さて、本作はもう一人女性ジャーナリストの視点がある。彼女は、高慢なスターに見えるムケルジのことを良く思っていない。スターをグロテスクな存在だと認識している。彼女が彼の内面に迫ることで物語が進行する。注目すべきは、窓ガラスに無数のインド人がゾンビのようにムケルジへ眼差しを向ける場面。ジャーナリストは、この眼差しに耐えられない。しかし、ムケルジは自分を眼差しに晒そうとする。これは、内なる空間において大衆から見放される恐怖がある状況において、自分を眼差しに晒すことで精神を保とうとする様を表象しているのではないだろうか?眼差しに自分を晒すのがライフワークな人とそうでない人の心理的差をグロテスクに描いた場面として興味深かった。
※MUBIより画像引用