【ネタバレ】『ファイブ・デビルズ』もしも、レア・ミシウスが『未来のミライ』を実写化したら

ファイブ・デビルズ(2021)
原題:Les cinq diables
英題:The Five Devils

監督:レア・ミシウス
出演:アデル・エグザルコプロス、サリー・ドラメ、スワラ・エマティ、ムスタファ・ムベング、ダフネ・パタキア、パトリック・ブシテーetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

『パリ13区』やデプレシャン監督作の脚本家として知られ、失明しつつある少女の異様なドラマ『アヴァ AVA』で長編デビューを果たしたレア・ミシウス。彼女の監督作『ファイブ・デビルズ』が公開された。異様さがパワーアップしていて面白い作品に仕上がっていた一方、ネタバレなしで話すのがあまりにも難しい映画なので、今回はネタバレ記事とする。

『ファイブ・デビルズ』あらすじ

「パリ13区」「イスマエルの亡霊たち」などの脚本を手がけたフランスの新鋭レア・ミシウスが、監督デビュー作「アヴァ」に続いて撮りあげた長編第2作。

香りの能力を持つ少女が母の封じられた記憶に飛び込んでいく姿を、恐ろしくも美しい映像で描き出す。嗅覚に不思議な能力を持つ少女ヴィッキーは、大好きな母ジョアンヌの香りをこっそり集めている。ある日、謎めいた叔母ジュリアが現れたことをきっかけに、ヴィッキーのさらなる能力が開花。ヴィッキーは自分が生まれる前の母と叔母の過去にタイムリープしてしまう。

「アデル、ブルーは熱い色」のアデル・エグザルコプロスが主演を務め、秘密を抱える母ジョアンヌを演じた。

映画.comより引用

もしも、レア・ミシウスが『未来のミライ』を実写化したら

本作は、少女ヴィッキー(サリー・ドラメ)目線で観ると『未来のミライ』であり、謎の訪問者ジュリア(スワラ・エマティ)目線で観ると『荒野のストレンジャー』的な怪奇西部劇のような物語となっている。嗅覚が優れた少女ヴィッキーは、謎の訪問者ジュリア(スワラ・エマティ)のことが気になってしょうがない。嗅覚スキルを活かして、ジュリアのことを探ろうと、彼女の一部を集めて香水を作る。そして嗅ぐと、ジュリアの記憶の断片へとワープする。どうやら、母親とジュリアは同性愛の関係にある。大好きな母親を奪われるのではないかと考えた彼女は、ジュリアを監視する。一方で、既に家族を形成しており、夫とは別に職場の女と同性愛の関係にあった母ジョアンヌ(アデル・エグザルコプロス)。復讐かのように、ジュリアは関係性を破壊しようとする。

突然現れた存在によって、自分と大好きな存在が切り裂かれてしまうのではという不安を、形而上たる世界から払拭しようとする試みは『未来のミライ』を彷彿とさせる。しかし、これは主にヴィッキーの世界での話であって、物理世界では着実にジュリアと母は親密な関係性になっていく。特に顕著なのは、カラオケの場面である。ボニー・タイラー「愛のかげり」を歌おうとするジョアンヌ。しかし、崩れて歌えなくなりそうになる。そんな彼女を介抱するようにジュリアが歌い始め、聖域が完成される。

もはや暴走し、崩壊しつつある家族にヴィッキーは眼差しと推察による指示でしか対抗することができないのだ。それはある種の本能の世界なのかもしれない。自然を制御することができない。それをそれとして受け入れ本能があるままに進むしかできない。だからヴィッキーは中盤以降、母の存在を若干諦めているように見える。そして今まで空気のような存在であった父に向かう原動力になっている。変な映画であるが、その予測不能なアイデアに魅了された。

※映画.comより画像引用