『アカーサ〜僕たちの家〜』保護することの加害性

アカーサ〜僕たちの家〜(2019)
Acasa, My Home

監督:ラドゥ・チュロニチュック

評価:70点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

MadeGood.Filmsさんのご厚意で現在、

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にて配信されているルーマニアのドキュメンタリー映画『アカーサ〜僕たちの家〜』を観たので感想を書いていく。

『アカーサ〜僕たちの家〜』概要

にぎやかな大都市に隣接するバカレシュティ湖。その手つかずの自然の中で暮らすエナケ一家。20年来、彼らは湖畔の小屋で眠り、素手で魚を捕り、季節を肌で感じながら自然と完全に調和して暮らしていた。ある時、この地域を国立公園にするという行政の介入があり、一家は型破りな生活を捨てて街へ移住することを余儀なくされる。彼らの生活は一変し、釣り竿をスマートフォンに持ち替え、気ままに過ごしていた日中は学校へ通うことになる。

一家は現代文明に順応しようとするが、都会の人々との折り合いや家族の繋がりを維持するのに苦労するようになり、自分の立ち位置と取り巻く世界、そして将来について疑問を持ち始める。自然の中で自由に暮らしていた9人の子ども達とその両親は、果たしてコンクリートジャングルの中で以前のように家族の絆を育めるのだろうか。

この『アカーサ〜僕たちの家〜』が監督デビュー作となるラドゥ・チュロニチュックは、エナケ一家に寄り添いつつも映画的な視点で説得力のある物語を提示している。ルーマニア社会の末端に生きる貧しい家族が、都会の暮らしに居場所を見い出そうとする葛藤を描き、生きる自由の意味を問う。

MadeGood Filmsより引用

保護することの加害性

エリア・カザンは『荒れ狂う河』で、中洲に住む住人を立ち退かせる物語を紡いだ。この物語では中洲に住むヒロインと役人との恋愛ドラマへと発展していくのだが、現実はどうだろうか?ルーマニア・ブカレストにあるバカレシュティ湖に住むエナケ一家。子どもたちは、湖に潜り魚を咥える。今日のご飯だろうか?陽光差し込む、美しき世界の中で彼らは逞しく生きているのだ。しかし、そこに行政が立ち入る。バカレシュティ湖を国立公園にするため立ち退くようにと。今まで当たり前だった湖での生活が終わる。困惑の中、コンクリート・ジャングルに溶け込もうとするが、違和感がそこに生じる。

ユネスコ世界遺産・持続可能な観光プログラムアドバイザーであるジェイムズ・リーバンクスが「羊飼いの暮らし イギリス湖水地方の四季」の中で、都市部の人間が「保護する」名目で古くから住む者の心を都合よく解釈して踏み躙る問題について指摘している。『アカーサ〜僕たちの家〜』に登場する家族にとって、湖の生活は都である。我々からすると、住みにくそうに見えるが、それは都市部に住む者の発想だということが翳りひとつない湖での生活を通じて物語られるのだ。

開放感ある湖と対照的に捉えられる人工物の箱に押し込められる家族の息苦しさを通じて、古くから住む者が現代に適応しなければいけない状態の問題点を炙り出していた。
※映画.comより画像引用