優しさのすべて(2021)
監督:安達勇貴
出演:二田絢乃(廣木凛)、田中一平、黒住尚生、はぎの一、ながいじょうじ、KAZUKI、佐々木美佳、清水かなえ、白山ゆり、所七海etc
評価:20点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
今年は珍しく、映画のコメントを観て映画館に行く機会が多い。VTuber名取さなさんがコメントしたことにより『夏へのトンネル、さよならの出口』を観に行った。今度は蓮實重彥が『優しさのすべて』に対して「ユスターシュ『サンタクロースの眼は青い』に匹敵する中編映画の傑作が日本に生まれた!」と語っていた。蓮實重彥の煽り方はあまり好きではないものの、『サンタクロースの眼は青い』と言われたからには確認したい。どんなリア充爆発しろ映画になっているんだ?と思って観に行ったら、リア充が不発し燻っているタイプの映画であった。
『優しさのすべて』あらすじ
東京で生きる一組のカップルの真摯で不器用な恋を描き、第22回TAMA NEW WAVEコンペティション部門で特別賞を受賞したドラマ。
東京に暮らすマアサとカイは恋人同士で、ケンカが絶えないながらも日々を楽しく、自由に時間を過ごしている。地元の友人アキとの再会を楽しみ、自分たちの未来に思いをはせる2人。しかし、マアサはカイの知らない誰かと寝ていた。不器用な愛をぶつけるカイと、それでも孤独を感じてしまうマアサ。それぞれの時間が過ぎていくなか、アキが突然失踪したとの連絡が届く。
マアサ役は舞台から映画、CMと活動の場を広げる二田絢乃、カイ役は「ぬけがら」の田中一平、アキ役は「東京バタフライ」「片袖の魚」など数多くの映画に出演する黒住尚生。
リア充の目は黒い
マアサ(二田絢乃)とカイ(田中一平)は居酒屋でアキ(黒住尚生)を前にいちゃつく。二人は部屋でいちゃついているが、マアサはカイの知らないところで男と寝て、ダンスを覚える。それにカイは耐えられなくなってくる。
本作は、濱口竜介や今泉力哉的な会話による恋愛を物語ろうとして失敗していると思う。部屋の中での空間の撮り方が貧相で平坦に見えてしまう。ジャン・ユスターシュの場合、クリスマスなのにどこか冷たい街を画に収めているのだが、本作はただ人のいない場所を撮っているだけに見えてしまう。その結果、会話がただただ女々しくて、どうでもいいものに見える。恐らく、『優しさのすべて』は物語に優しすぎたのだと思う。本作は、カイが自分の見ていない場所でマアサが何をしているかに不安を募らせ崩壊していく物語である。ならば、マアサがダンス教室に通うような視点を削り、徹底してカイ目線で描くことで孤独が増幅されて行ったのだと思う。
これをすることで印象はどのように変わるのだろうか?マアサが銃を撃つ場面が活きてくるのである。カイが主導権を握っているようで、実際にはマアサが彼をコントロールしている。ファムファタールな存在としてマアサがいる。そんな彼女の行動を隠すことで、別の男と怪しいやりとりをしている彼女が間一髪のすれ違いでカイと遭遇し、狼狽することなく接する場面がスリリングなものとなってくるかもしれないし、終盤でマアサの秘密が明かされることで、このすれ違いが伏線として機能してくることでしょう。何よりも、手帳に重要な意味を持たせることができる。カイが意を決してマアサの真実に気づく、そしてその真実と向き合う装置として手帳が強調されるのだ。
ということで個人的に大きく不発に終わった一本であった。
リア充は爆発してはくれなかったのである。
※映画.comより画像引用