バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー(2021)
原題:Super-héros malgré lui
英題:Superwho?
監督:フィリップ・ラショー
出演:フィリップ・ラショー、ジュリアン・アルッティ、タレク・ブダリ、エロディ・フォンタン、アリス・デュフォア、ジャン=ユーグ・アングラード、アムール・ワケドetc
評価:95点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
コント仕掛けのスペシャリスト:フィリップ・ラショー新作が日本公開された。前作が「シティーハンター」の実写化でこれが原作の魅力を引き継ぎつつ、フレンチコメディにチューニングされたそのバランス力の高さが素晴らしい作品に仕上がっていた。フィリップ・ラショー監督は『世界の果てまでヒャッハー!』もそうだが、オマージュをオマージュに終わらせないところが魅力的な監督だ。設定はそのまま、フランスの豪快なギャグに変換していくその鮮やかさと、元ネタに対する解像度が高い。そして今回、マーベルやDC映画に対する解像度が異様に高い映画となっており、腹筋崩壊レベルの面白さであった。
『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』あらすじ
フランス映画「シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション」のフィリップ・ラショーが監督・主演を務めたコメディアクション。警察署長の父の反対を押し切って夢を追い続ける売れない役者セドリックは、新作映画「バッドマン」の主役に抜てきされる。それは“バッドモービル”に乗って宿敵“ピエロ”と戦う“バッドマン”の活躍を描いたヒーロー映画で、セドリックは体を鍛え上げ、武術を学んで撮影に臨む。撮影初日を無事に終えようとした頃、妹から父が倒れたという連絡が入る。慌てたセドリックは衣装のバッドスーツを着たままバッドモービルに乗って病院へと急行するが、その途中で事故に遭い記憶を失ってしまう。共演にも「シティーハンター THE MOVIE」のメンバーが顔をそろえるほか、「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」のジャン=ユーグ・アングラードも出演。
コント仕掛けのスペシャリスト:フィリップ・ラショー
白羽の矢が立ち、「バットマン」のパチモン映画に出演することになったセドリック(フィリップ・ラショー)。撮影が開始するもプロデユーサーがスポンサーのメーカーから掃除機を登場させるように言われたり、機材が上手く機能しなかったり難航している。そんな中、父が倒れたとの連絡を妹から受ける。勢いで衣装のまま、バットモビールのような車で病院に向かうも途中で事故に遭ってしまう。そして記憶喪失になったセドリックは、自分がヒーローだと勘違いしてドンドン事態が悪化していく。
まず、DC、MARVELネタの解像度が高い。表面的なオマージュに留まらず、セドリックの気分が向上するときに『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で使用されたRedboneの“Come and Get Your Love”を使用したりする。またネタを線として繋げている。序盤、MCUのテーマ曲を模した楽曲が使われるが、セドリックの演じる役はDC。この矛盾は終盤になるとバッドマンの衣装が剥げてくることによりMARVELキャラクターに変貌し解決する。これには唸らせられた。
また、ギャグに関しては立体的である。セドリックが銀行強盗に誘拐されそうになる女性を助ける場面。車の外で、泥臭い戦いが繰り広げられている。女性が覗き込もうとすると、セドリックのアクションが激しく彼女にぶつかる。それでも彼女は車の天井から這い出ようとするのだが、そこへ頭上から落下物が落ちてダメージ。なんとか外に出るも、消火栓の上に乗ると、そこに打撃があたり、彼女は空へと舞う。アクションの連鎖反応によるギャグの増幅が行われるのだ。
全編、アンジャッシュのネタのように登場人物の知っている/知らないの不協和音によりドンドン事態が最悪な方向へ向かっていくのだが、それは撮影現場に収斂するように仕向けられる。明らかに人生この先真っ暗なセドリック。そこからどのようなハッピーエンドを迎えるのか?これは実際に映画を観て確かめてほしい。
曲芸のように回収される伏線と、修羅場の鎮火。その鮮やかさにただただ感動したのであった。あんまり語るのはこれから観る人に申し訳ないので、ここで終わりにする。
P.S.本作は白羽の矢が立つ企画に振り回されながら現場の一体感、家族愛が醸造される内容だったので、なおさら『キャメラを止めるな!』はフィリップ・ラショー監督に撮って欲しかった。
※映画.comより画像引用