ボルテックス(2021)
Vortex
監督:ギャスパー・ノエ
出演:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ、リリー・ブラウン・グリフィス、リチャード・カーウィンetc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
ギャスパー・ノエほど、作品を重ねるごとにクオリティが上がる監督はいないだろう。『ヴィクトリア』の長回しに感化され『CLIMAX クライマックス』を撮った彼は、『ルクス・エテルナ 永遠の光』で2画面演出への手応えを感じたそうだ。そして、この2作のテクニックをふんだんに活かした最新作『Vortex』を爆誕させた。
『Vortex』あらすじ
The last days of an elderly couple stricken by dementia.
訳:認知症に冒された老夫婦の最期の日々。
ギャスパー・ノエの「あなたのため」の鋭い分断
主演はなんと、『サスペリア』のダリオ・アルジェント。しかも毎回、血とSEXがトレードマークとなっている彼にしては珍しいどちらも封印した作品となっている。しかも介護映画だ。イメージとしては、ミヒャエル・ハネケが『愛、アムール』を撮った状況に近い。
相変わらず、エンドロールを最後に持ってきたくない彼は、最初にゴリゴリの文字アートでエンドロールを書き殴る。そして、ダリオ・アルジェント演じるお爺さんとお婆さん(フランソワーズ・ルブラン)が大画面に共存する最後のひとときをバキバキに決まった画で描く。窓越しの切り返しひとつとっても、被写体を綺麗に収めるポートレートとなっている。
そして、朝が始まる。2画面で、お爺さんとお婆さんの起床と活動が描かれる。お婆さんの朝は早い。部屋を徘徊しながら、コーヒーを淹れる。おじいさんもヨロヨロ起き上がり、徘徊をはじめ、やがてタイプライターで執筆を始める。お爺さんの近くで徘徊する婆さんを軽く追い払う彼。それがトリガーとなって、彼女は外に飛び出し散歩を始める。そして、雑貨屋に飾ってあるオモチャに囚われて迷宮に入り込んでしまう。
彼女が行方不明なことに気づいた彼は、捜索を開始する。電話をかけても出ない。友人のいる本屋に行っても彼女はいない。2画面だからこそ、「一方、その頃」が分かる面白さがそこにあった。やがて彼女は発見され、彼は花を買ってあげる。ギャスパー・ノエ、ほっこり映画撮れるのかと思ったら、そんな訳はなかった。
家に戻るなり、彼は彼女を尋問するのだ。
「どこに行っていた?薬局、そんな訳ないだろう、絶対に無理だ。」
正論を盾に彼女の心を追っていくのだ。
本作のテーマは認知症を抱える者を前に「あなたのため」の感情が無意識なる見下しをしてしまう様子である。
2画面はまさしく、同じ空間にいながらも交わることのない二人の心理を象徴しており、その橋渡しとして息子ステファン(アレックス・ルッツ)がいるのだ。彼は定期的に家に訪れ、冷静に精神科に通わせようとするが、彼がキレてなかなか言うことを聞いてくれないのだ。
ギャスパー・ノエが意地悪なのは、外面は良く魅せようとしているお爺さんが、家では彼女のことを何も思っていない様子を延々と魅せることだろう。
映画と夢に関する書籍へのアドバイスをもらうため、電話ミーティングを始める彼。お婆さんは、部屋と部屋を行ったり来たりして、時に扉越しにお爺さんを見つめる。でも彼は彼女の眼差しに気づかないのだ。左の画面、左に視線をやるお婆さんの構図をもって、意志の伝わらなさを増幅させている。
2時間半近い地獄絵図であるが、画の演出よし、物語よし、ダリオ・アルジェントの演技よしの2022年最強の映画であった。
日本公開してほしいな。