金の糸(2019)
原題:Okros dzapi
英題:The Golden Thread
監督:ラナ・ゴゴベリーゼ
出演:ナナ・ジョルジャーゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ、ダト・クヴィルツハリア、Temiko Chichinadze、Nini Iashvili、Paata Inauri etc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
岩波ホール閉館のニュースを聞いて衝撃を受けてから1ヶ月が経った。新型コロナウイルスの感染者数が中々下がらず、また本業が繁忙期ということもあり命をかけて劇場に訪れるわけにもいかずジョージア映画祭は行けなかったが、仕事が落ち着いたタイミングを見計って恐らく最後になるであろう岩波ホール訪問をしてきた。観賞作品はジョージア映画の新作『金の糸』だ。これがかなり渋い作品であった。と同時に、岩波ホール閉館後はこの手の作品はどこで上映されるのかと不安にもなりました。
『金の糸』あらすじ
ジョージア映画界を代表する女性監督ラナ・ゴゴベリゼ監督が、日本の陶器の修復技法「金継ぎ」に着想を得て、過去との和解をテーマに描いた人間ドラマ。ジョージア・トビリシの旧市街の片隅にある古い家で娘夫婦と暮らす作家のエレネは、79歳の誕生日を迎えたが、そのことを家族の誰もが忘れていた。娘は姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたため、この家に引っ越させて、一緒に暮らすという。ミランダは、ジョージアのソビエト時代に政府の高官だった女性だ。そんなエレネの誕生日に、かつての恋人アルチルから数十年ぶりに電話がかかってくるが……。
ジョージアの失われた時は受話器から求められる
プルーストの「失われた時を求めて」の質感にうっとりしつつ老境のエレネは小説を書いていた。彼女は79歳を迎えた。この年になると、知り合いは他界していることも多い。家族からはアルツハイマーを心配され干渉してくる。その扱いの冷たさに悲しみを抱えている。そんな彼女に電話がかかってくる。かつての恋人アルチルだ。元恋人の前で背伸びして豊かに見せる。花瓶に花が入っていると言うが、目の前には何も刺さってない寒々しい花瓶がある。だが、彼女の目には美しく盛られた花が見えるのだ。これを機に定期的に電話をするようになる。アルチルは車椅子で不自由な生活を送っている。エレネももうそんなに遠くには行けない。しかし、対話を通じて過去へ旅をすることができる。回想、空想の中で世界は広いのだ。一方で、それは辛い過去との対峙にも繋がる。姑ミランダがソビエト時代政府の高官だった話も混じり、絡み合った(=ジョージアの言葉では「運命づける」という意味合いを持っている)人生における金の糸を解いていく。
鏡越しにトボトボとエレネが歩いていく様子から内なる世界に入っていく様子を描いたり、半径数十メートル圏内の移動を通じて老人が過去を旅するトリガーを次々と引いていったりと確かな業を魅せてくれる作品であった。
※映画.comより画像引用