『ブルーサーマル』あのこはサクラか、それとも救世主か?

ブルーサーマル(2022)

監督:橘正紀
出演:堀田真由、島﨑信長(島崎信長)、榎木淳弥、小松未可子、小野大輔、白石晴香、大地葉、村瀬歩、古川慎、高橋李依etc

評価:55点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

小沢かなの青春漫画「ブルーサーマル 青凪大学体育会航空部」のアニメ映画『ブルーサーマル』が公開された。実は映像化はこれが初めてではない。上田慎一郎監督が『カメラを止めるな!』でカルト的ヒットをもたらした同時期にVR映画『ブルーサーマルVR』を発表している。全国の複合カフェ、ホテル、カラオケ、ゲームセンター等に併設されているVR THEATERで観られる特殊形態だったため、公開当時観に行けなかったことを記憶している。閑話休題、予告編を観ると私の好きなリトアニア映画『サンガイレ、17才の夏。』に近い面影を感じた。空を自由に飛びたい渇望と、そこを取り巻く恐怖や葛藤が塗りたくられた青春映画のように見えたのだ。しかし、実際に観賞してみるとどうも様子がおかしくて…

『ブルーサーマル』あらすじ

小沢かなの青春漫画「ブルーサーマル 青凪大学体育会航空部」を原作に、上昇気流(サーマル)を捉えることで飛翔する航空機・グライダーでスピードを競う大学航空部の部員たちの奮闘を描いたアニメーション映画。キラキラしたキャンパスライフへの期待を胸に青凪大学に入学した都留たまきは、あるきっかけからグライダーを傷つけてしまい、弁償するため体育会系航空部に雑用係として入部することに。仕方なく練習に参加するたまきだったが、主将・倉持が操縦するグライダーで初めて飛び立った瞬間、一面に広がる空の美しさにすっかり魅了されてしまう。指導係の先輩・空知や仲間たちと過ごすかけがえのない時間を通し、たまきは次第に自分の本当の居場所を見いだしていく。女優の堀田真由が主人公たまき役で声優に初挑戦。「ルパン三世 カリオストロの城」などで知られる老舗アニメーションスタジオのテレコム・アニメーションフィルムがアニメーション制作を手がけ、「プリンセス・プリンシパル」シリーズの橘正紀が監督を務めた。

映画.comより引用

あのこはサクラか、それとも救世主か?

空港で母と別れを告げる女性・都留たまき。しかし、いきなり看板に激突し出鼻を挫かれる。大学デビュー、勉強に恋に部活動にバイト!自由の身となった彼女は新生活にワクワクドキドキが止まらない。そして彼女が向かう先はテニス部!この時点で既に不安要素があるのだが、彼女は体験練習で打ったボールを着ぐるみにぶつけ、その弾みでグライダーの翼を粉砕してしまう。目の前が真っ暗になった彼女は、仄暗い部屋で目を覚ますと、体育会系航空部の部屋だった。

輝ける青春ものかと思いきや、スクリューボールコメディのヒロインさながら、行動の一つ一つが破壊を誘発する。さては、この女性サークルクラッシャーだなと思っていると、物理的破壊に飽き足らず、人間関係をも侵食し始める。そうそう簡単に、グライダーに乗ることはできないのにあっさり主将であり教官の倉持と一緒に空を飛ぶ。しかも、彼女には天才的な才能があったため、すっかり彼は彼女を贔屓にし始める。そんな彼女を良く思っていない空知は、たまきの面倒を見る羽目となる。彼女は、ドライバーを無くし、連帯責任でメンバー全員を夜な夜な外へ駆り出させる。罪悪感に泣きじゃくる彼女を励まそうとする空知だが、彼のタイミングを引き裂くように彼女はドライバーを見つけてしまう。また他校との練習では、何故か彼女の姉がいて、それが原因となって険悪な関係になる。

ひたすら既存の政治的関係を破壊していくのだ。しかし、彼女はグライダーの才能だけでなく、タチが悪いことに他者の心の隙間に入り込む天才であり、他校のライバルもろとも味方につけ、しまいには驚くべき要求をある人物に通してしまう。

よくある青春キラキラアニメだと思ったら大間違い。天気は暗く、爽快さとは程遠い画があまりにも多く、内容も突然深い闇に突き落としてくるのだから。

なので私好みな作品であったのだが、致命的なポイントがある。それは肝心なグライダーの試合場面が、のっぺりとした画となっており、立体的動きが少なかったことにある。また、登場人物たちの戦略や何故そのアクションが凄いのかを全てセリフで説明してしまっており、画の自信のなさが露見していたように見える。グライダーの映画なのでこれは致命的であろう。また、話が駆け足で進むので、アニメシリーズのダイジェストに感じたのも勿体ないところだ。1期12話のシリーズでやる内容だったのではと思ってしまった。

※映画.comより画像引用