FLEE(2021)
監督:ジョナス・ポエール・ラスムーセン
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第94回アカデミー賞で国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー映画賞、長編アニメーション賞の3部門にノミネートすると囁かれている『FLEE』を観ました。アフガニスタンから難民としてロシアへ、デンマーク、アメリカへと渡った男の独白を描いた作品である。バンド・デシネタッチの作品は、日本のアニメに慣れてしまっていると絵の良さでゴリ押して内容が弱いイメージが強い。だが、本作はなかな良い作品でした。
『FLEE』あらすじ
FLEE tells the extraordinary true story of a man, Amin, on the verge of marriage which compels him to reveal his hidden past for the first time.
訳:『FLEE』は、結婚を目前に控えた男アミンが、初めて自分の隠された過去を明かすことになる、驚くべき実話を描いた作品である。
※IMDbより引用
ヴァンダムのように強くなりたい!
1980年代、アフガン内戦が拡大しつつある頃。少年であるアミンはa-haの「Take On Me」を聴きながら町を駆け回っていたが、段々とできなくなっていく。店では食料品が枯渇し、市民のフラストレーションが高まっていく。やがてロシアへ亡命することになる。コペンハーゲンで今や親友同士となっているアミンと映画監督のラスムーセンの対話によってアフガニスタンから亡命しロシアで凄惨な差別に遭った日々が語られる。
本作は、小さな枠で挿入されるアフガニスタン情勢の映像と、アニメーションの交差によってアミンの心の奥にあるトラウマを見つめていく作品だ。『戦場でワルツを』、『The Green Wave』と戦争や紛争を扱ったドキュメンタリーでは、時折アニメーションが使われる。これは撮影が困難ということもあるが、多くの当事者が記憶でしか語れない状況にあるからともいえる。皆が『ミッドナイト・トラベラー』のようにカメラを持って難民当事者の視線を描ける訳ではないからだ。むしろそのケースの方が珍しい。
過去を紐解く中で、アミンが内に隠していた同性愛者としての葛藤や心理も浮かび上がっていく。幼少期から厳しい環境におかれ、家族との幸せな日々も奪われていく。ロシアでは、移民として警察に理不尽な取り調べを受け不快な思いをする。弱いアミンは、いつしかテレビに映るジャン=クロード・ヴァン・ダムに憧れるようになる。強くなりたい。強くありたいという気持ちが、男性への愛に繋がっているようにみえる(ここは慎重に観る必要があるが)。
また、本作はデンマークで作られたことが重要な作品ともいえる。デンマークは2010年代後半から、移民排斥の動きが強く、一時期難民申請が却下されたものを島流しにしていた。本作はロシアでの差別の話が中心であり、デンマークでの話はほとんど触れられていないのだが、移民に厳しいデンマークだからこそこのドキュメンタリーは良心に訴えかける要素が強いと感じる。
カウンセラーのようにベッドにアミンが横たわり、現実と回想を浮上したり潜ったりしながらトラウマに向き合う様子に胸が締め付けられました。
※MUBIより画像引用