【MUBI】『LET THE SUMMER NEVER COME AGAIN』低解像度の記憶

LET THE SUMMER NEVER COME AGAIN(2017)

監督:アレクサンドレ・コベリゼ
出演:Giorgi Bochorishvili,Mate Kevlishvili etc

評価:55点


おはようございます、チェ・ブンブンです。

MUBIで『見上げた空に何が見える?』のアレクサンドレ・コベリゼ監督特集が開催されている。短編『LINGER ON SOME PALE BLUE DOT』、『COLOPHON』の他に長編デビュー作『LET THE SUMMER NEVER COME AGAIN』も配信されていた。3時間半と超長尺映画なのですが、早速観賞してみました。

『LET THE SUMMER NEVER COME AGAIN』あらすじ

When a young Georgian man leaves his village to audition for a dance ensemble in the city, his need for money will drive him to underground fighting and prostitution. Falling in love with one of his clients, his life will turn upside down when his lover, an army officer, leaves for the warfront.
訳:グルジアの青年は、都会のダンス・アンサンブルのオーディションを受けるために村を出るが、金欲しさに地下格闘技や売春に手を染めてしまう。客の一人と恋に落ちた彼の人生は、恋人の陸軍士官が戦地に赴いたことで一変する。

MUBIより引用

低解像度の記憶

本作は低解像度の携帯電話のカメラで撮影されている。駅のプラットフォームでの人々の営みは、どこか懐かしさがある。本作においてこの懐かしさが重要な鍵を握っている。人生における何気ない日常を思い出したような、ぼんやりとした空気感を携帯電話のカメラの質感で表現しているのだ。そして、本作はほとんどセリフがない。サイレント映画に近い作品となっている。その為、サイレント映画時代の滑稽な人間の運動が描写されている。例えば、公園で青年がうつむいていると、少年が彼のバックを強奪する。カットが切り替わると、大人が子どもとバックを引っ張り合う画が映り込む。綱引きに大人が勝利し、青年にバックを返す場面は素朴ながらも見入ってしまうものがある。少々長過ぎて飽きてしまうのは『見上げた空に何が見える?』と共通するのだが、アレクサンドレ・コベリゼの確かなカット捌きは魅力的である。

映画の中身は、戦争を通じて引き裂かれる恋愛ものだ。とはいっても物語らしい物語はなかなか見えてこず、日常風景を注意深く見つめ察する必要がある。つまり、これはある男の断片的な記憶を覗き込み、その中に悲哀を見出す作品なのだ。美しいジョージアの景色の中に物語を見出す奇妙な体験。映画としてはテクニックに溺れた実験映画という印象を受けてそこまで好きではないが面白い作品を目撃した感覚に包まれました。

『見上げた空に何が見える?』にも登場した鉄棒も確認でき、あの映画の布石となっている作品でありました。

MUBI映画記事

【MUBI】『THE BONES』これが真のボーン・アイデンティティ(The “Bone” Identity)だ!
【MUBI】『いくつかの無意味な出来事について』封印されしモロッコ映画
【MUBI】『DADDY AMIN』エジプトのサザエさんはアメリカのミュージカルに羨望を抱く
【MUBI】『5月の後』結局、結局、社会のレールに乗ってしまうのさ
【MUBI】『Beginning』燃ゆる終わりの始まりは果てしなく

※MUBIより画像引用