ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ(2016)
Searchers
監督:ザカリアス・クヌク
出演:Benjamin Kunuk、Jonah Qunaq、Jocelyne Immaroitok、Karen Ivalu、Joey Sarpinak、Joseph Uttak etc
評価:70点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
イヌイット映画の先駆者ザカリアス・クヌク監督の『ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ』を再観賞した。本作はなんとジョン・フォードの『捜索者』のリメイクである。 ザカリアス・クヌク監督は1957年に生まれた。幼少期は狩猟民族として、移動生活の日々を送っていたが、カナダ政府の指導によって町に集められ英語教育が始まる。イヌイットはカナダ市民としてのアイデンティティを無意識に植えられる。そんな中、ジョン・フォードの『捜索者』を観る。最初は楽しんでいたが、後に自分が悪役側であることに気付かされた。そして彼は「イヌイットのイヌイットによるイヌイットのための映画」を作ろうと団体を立ち上げ、デビュー作『氷海の伝説』が第54回カンヌ国際映画祭カメラ・ドールを受賞し軌道に乗って以降定期的に映画を発表している。『ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ』はその中でも集大成といえる作品であり、ルーツである『捜索者』への挑戦といえる。とはいえ、本作ではイヌイット集落内での勧善懲悪に置き換え、表面的には誘拐された家族を奪還する話となっている。さて感想について書いていこう。
『ᒪᓕᒡᓗᑎᑦ』あらすじ
Inspired by the John Ford film The Searchers, an Inuit woman and her daughter are kidnapped by three Inuit men, while her husband and son are away. The Inuit husband sets out on a journey to find his family and punish the perpetrators.
訳:ジョン・フォードの映画『捜索者』をモチーフに、夫と息子の留守中にイヌイットの女性とその娘が3人のイヌイットの男に誘拐される。イヌイットの夫は、家族を探し出し、犯人を罰するために旅に出る。
※IMDbより引用
イヌイット語圏でジョン・フォード『捜索者』をリメイクしてみた件
雄大な大地に恍惚とした月や太陽が移る。そんな大地では家族がひしめき合って暮らしている。大黒柱の男は出かける。その間に、男がかまくらに侵入して女を強姦してしまう。大黒柱が帰る。何かおかしい。望遠鏡を覗き込むと家に大穴が開いているのだ。ジョン・フォード『捜索者』では、家の内側から広大な大地を撮る有名なシーンがある。それを破壊されたかまくらの内側からの撮影で再現しているのが新鮮だ。建物内部に生み出されたフレームに収まるようにソリが入り込んでいくところに美しさを感じる。一方で、破壊されたかまくらの生々しさを感じる。
本作は骨格として西部劇があり、復讐のロードムービーになっている。だが、物資が乏しいイヌイット圏。銃弾は数発しかない。故に、大黒柱が銃弾をセットする場面がじっくり丁寧に描写され、いかに銃弾が貴重かがよくわかる仕組みとなっている。それなら、一層のこと殴り合った方が早いのではと思っていたら案の定、クライマックスは泥臭い殴り合いに発展していく。
正直、『氷海の伝説』の裸鬼ごっこのシーンを観てしまうと霞む映画であるが、『捜索者』時代の先住民搾取に対するカウンターとして脱構築された本作は映画史にとって非常に重要な映画である。
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※MUBIより画像引用