The Journals of Knud Rasmussen(2006)
監督:ザカリアス・クヌク
出演:Natar Ungalaaq,Pierre Lebeau,Leah Angutimarik,Jens Jørn Spottag,Neeve Irngaut etc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
イヌイットの、イヌイットによる、イヌイットのための映画を作り続けているザカリアス・クヌク監督。彼の2006年に製作された『The Journals of Knud Rasmussen』を観ました。
『The Journals of Knud Rasmussen』あらすじ
A portrayal of the lives of the last great Inuit shaman, Avva, and his beautiful and headstrong daughter, Apak. Based on the journals of 1920s Danish ethnographer Knud Rasmussen.
訳:イヌイット最後の偉大なシャーマン、アヴヴァとその美しく強靭な娘アパックの人生を描く。1920年代のデンマークの民族誌学者クヌード・ラスムセンの日記を基にしている。
信仰の移ろい
ザカリアス・クヌクの映画はイヌイットの伝統的な生活をドキュメンタリータッチとして描くことに注力している。『極北のナヌーク』の時代の生活がカラーで再現されると共に、長年同質の生活を維持してきたイヌイットの生活が投影されるので、時代劇にもかかわらず古さを感じさせない雰囲気が独特の魅力を醸し出している。
デンマークの民族学者の手記を基に、1922年にイヌイット圏にキリスト教が持ち込まれた際の葛藤が映画で描かれている。日本では遠藤周作の「沈黙」でも描かれている通り、キリスト教は禁教として弾圧されていった。世界史の観点からみるとキリスト教は国を支配するためのツールとして機能しており、伝道師がキリスト教を布教させることで勢力拡大を行ってきた。
本作で描かれるのは、キリスト教を受け入れるかどうかの瀬戸際だ。キリスト教を受け入れることで、これまでの信仰が揺らぐ。そのプロセスを、ドキュメンタリータッチと時空を超えるような不思議な画を交差させて描く。
信仰の話だけでなく、どのように氷のドームを作るのかを『氷海の伝説』以上に細かく説明する。ブロック状の氷を隣接する氷塊の断面に合致するように削っていき、隙間をその削りカスや周囲の粉雪で埋めていく。こうした過程をじっくり魅せていくのでドキュメンタリー的だ。一方で、肉体が交わる場面ではSF映画のように白で覆われた浮遊感ある映像で描いていく。
これにより、神秘的な物語となっている。その神秘さが単なるイヌイット文化のアーカイブを超えて、世界史におけるキリスト教の伝播による影響という普遍的な問題を包み込んでいるように見えるのだ。
正直、『氷海の伝説』に比べるとそこまで面白い作品ではないのですが、興味深かった。
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