HER JOB(2018)
I douleia tis
監督:Nikos Labôt
出演:Marisha Triantafyllidou、ディミトリ・イメロス、Maria Filini、Dimitra Vlagopoulou etc
評価:60点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
2021年のEUフィルムデーズはオンラインとオフライン同時開催でした。『システム・クラッシャー』のような目玉作品はオフラインのみだったのですが、初めて見かける珍しいヨーロッパ映画が配信で観られました。今年は本業が忙しかった影響でギリシャ映画の『HER JOB』だけ観ました。閉塞感ゴリゴリの映画ではあるのですが興味深かった作品だったので感想を書いていきます。
『HER JOB』あらすじ
An oppressed woman discovers a new sense of self when she gets her first job as a cleaning woman in a shopping mall.
訳:抑圧されていた女性が、ショッピングモールの清掃員として初めて仕事をすることで、新たな自分を発見する。
正社員と非正規の狭間で
主婦Panagiota(Marisha Triantafyllidou)は文盲である。家事全般を彼女がやっており、家族の中では最もヒエラルキーが低い。娘にはナメられ、学校によびだされ彼女の成績を心配される始末。そんな彼女の苦悩に夫はあまり寄り添ってくれない。家庭の経済状況が悪化し、そんなPanagiotaは仕事を探さなくてはならなくなる。彼女は文盲な為、求人広告を読むにも一苦労だ。ようやく彼女はショッピングモールの清掃員というパートタイムジョブを見つける。最初は清掃車の運転すらままならなかったものの、次第にパート仲間とも仲良くなり、仕事も上達していく。しかし、レイオフの危機がジワジワとにじり寄ってくる。
本作は、正直日本の閉塞感ものにありがちな不幸てんこ盛り映画であり、問題提起の為に不幸を並べているタイプの映画だ。内容としてはあまり上手くないと思う。しかしながら、それを補う空間描写が良い。
だだっ広い赤い空間を一人で掃除機かけながら進む場面や、清掃車を運転する様子を遠くから捉えている場面など、パートタイムがいかに孤独かに説得力を与えるショットが多い。それがどれも映画的運動の中に落とし込まれているので、この点で評価できる。
また、正社員と非正規雇用の間のドライな断絶による空気感もリアルであり、主人公は折角時間をかけて身につけた清掃術もレイオフによって粉砕されそうになり、必死に「なんでもできます」と懇願するのだが、正社員は軽い感じでしか受け取ってくれない感じが生々しい。
こういうのを見ると、私も非正規の人に無意識で酷いことしちゃったかもしれないと思ったりする。会社の中でやっている製造をシステムとして取引先に売っぱらおうと言った際に「この案件なくなったら、どんな仕事するんですか」と契約社員の方が話してきた。正社員である私は、何かしらの仕事がアサインされる保証があるから深刻に捉えていなかったのだが、彼女からしたら失職する危険性があるのだ。そんな彼女の想いに寄り添えなかったことをこの映画を観て思い出した。
EUフィルムデーズでの配信は予算の関係か英語字幕しかなく、観ている人が少ないのですが、これは日本も他人事ではありません。
※EUフィルムデーズより画像引用
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