【ネタバレ考察】『ティングラー/背すじに潜む恐怖』ウィリアム・キャッスルWho Are You?

ティングラー/背すじに潜む恐怖(1959)
The Tingler

監督:ウィリアム・キャッスル
出演:ヴィンセント・プライス、ジュディス・イヴリン、ダリル・ヒックマン、パトリシア・カッツ、パメラ・リンカーンetc

評価:90点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

先日、Netflixで『ティングラー/背すじに潜む恐怖』が配信される情報を得た。映画ファン歴15年近くなるが、ウィリアム・キャッスル監督のことは初めて知った。このB級映画監督は、アメリカでも過小評価されているらしくスティーヴン・ジェイ・シュナイダー「501映画監督」にも未掲載なのですが、彼のエピソードと映画史に対する影響を踏まえると非常に重要な監督だったりする。

詳しくは、映画評論家なかざわひでゆき氏が書いたブログ記事(http://angeleyes.dee.cc/william_castle/William_Castle.html)を参照していただきたいのですが、 4D上映の元祖を作った人物である。『13ゴースト(1960)』では、赤色と青色のメガネが観客に渡され、合図と共に幽霊を観たい人は赤色のメガネを、幽霊を観たくない人は青いメガネをかける演出が施された。『Macabre』では、恐怖でショック死した人の為に観客全員に保険を発行し、劇場に白衣のスタッフを用意した。『地獄へつづく部屋』では劇場に骸骨を仕込み、クライマックスで観客に向かった飛び出すギミックが用意された。これらのギミックは興行パフォーマンスはアルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』の宣伝や、ジョン・ウォーターズの臭い出るカードを使った映画『ポリエステル』に影響を与えた。さらにはロバート・ゼメキスとジョエル・シルバーは彼の作品をリメイクする為に映画会社ダーク・キャッスル・エンターテイメントを創立し『TATARI タタリ』、『13ゴースト(2001)』を製作、勢いに乗って『カサブランカ』のマイケル・カーティスが撮ったホラー映画『肉の蝋人形』のリメイク『蝋人形の館』を製作した。彼はホラー映画だけではなく、小人症の苦悩を描いた『It’s a Small World』やSF映画などを手がけており、映画大好きポンポさんよろしく、「おバカ映画で観客を泣かせたい」を徹底した監督だった。

そんな彼の代表作『ティングラー/背すじに潜む恐怖』を観たのですが、めちゃくちゃ面白かった。一方で、何も知らないで観て欲しいのでネタバレありで感想書いていきます。

ジョン・ウォーターズやデヴィッド・クローネンバーグ、ギレルモ・デル・トロ映画が好きであればオススメです。また、映画制作の勉強している方はアイデアの宝庫なので観た方が良いです。

『ティングラー/背すじに潜む恐怖』あらすじ

An obsessed pathologist discovers and captures a parasitic creature that grows when fear grips its host.
訳:夢中になっている病理学者が、恐怖心を抱くと成長する寄生生物を発見し、捕らえてしまう。

imdbより引用

ウィリアム・キャッスル映画術

ウィリアム・キャッスルが「世にも奇妙な物語」のタモリのように登場して、「叫びはショックを軽減させる。だから時が来たら叫ぶのです。ビリビリとしたものが来るかもしれない。そうしたら叫ぶのです。」と語る。実は、本作は劇場の一部が電気椅子となっており、怪物ティングラーが現れると電気ショックが発生するのだ。そして観客に叫ばせることでチープな怪物ティングラーに魅力を与えようと試みている。4D上映の元祖である。

さて、映画が始まるとただのB級映画に思わせておりて、ウィリアム・キャッスルの映画論が全開となっている。ジュディス・イヴリン演じる聾唖の女性マーサはサイレント映画を上映している映画館で働いている。受付のガラス越しに手話で会話し、博士(ヴィンセント・プライス)とも挨拶を交わす。この際の撮り方は、サイレント映画に準じており、濃い化粧と、目力で観客を魅了する。叫ぶと弱体化する寄生生物ティングラー(デヴィッド・クローネンバーグっぽい概念生物だ)に対して、サイレント映画から飛び出してきたような叫ぶことのできない女性を配置することでスリルが増幅される。彼女が、家に何者かが潜んでいることに逃げ惑う場面。不気味に開く扉、死角から飛び出して来る斧と魅力的なショット繋ぎが畳み掛け、そしてそのシークエンスの終焉、洗面台から水が垂れ、バスタブから手がぬっと出て来る場面では液体をドス黒い赤色に塗りたくる。黒澤明が『天国と地獄』でパートカラーを実装する数年前に禍々しい方法でパートカラーを実装していたのだ。これは今観ても新鮮だ。

さらには、クライマックス。今や『しまじろう』や『おかあさんといっしょ』といった子ども向け映画でしか観ることのできない、観客に煽りを入れる場面が存在する。「皆さんも叫んでティングラーを倒しましょう」的なナレーションが入るのです。これには驚かされました。

確かに本作は鈍重で退屈する場面も少なくない。ティングラーもNetflix画質だと操り糸が見えてしまう。だが『マックイーンの絶対の危機』同様、モンスターを魅せずに恐怖をいかに増幅させるかに超絶技巧が光る。博士がLSDの幻覚を使い、叫ぶのを抑制しながらティングラーをおびき出そうとする場面の身体表象は不気味であった。上記のようにバスタブの水がドス黒い赤で覆われている場面は非常に怖かった。

こんな魅力的な監督に出会えて私は満足でした。ウィリアム・キャッスル映画掘ってみよう!

 

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