【日本未公開映画】『Rey(2017)』旅の真相は藪の中

 Rey(2017)

監督:Niles Atallah
出演:Rodrigo Lisboa, Claudio Riveros etc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

皆さんは、オルリ・アントワーヌ・ド・トゥナンをご存知だろうか?フランス人の弁護士であり冒険家でもある彼は1960年代に南米の奥地を冒険し、先住民族マプチェ族を従え、アラウカニア・パタゴニアの王となった。これが彼の虚言なのか事実なのかが未だに解明されていない。ビデオアーティストであるNiles Atallahがそんな曖昧さを『Rey』という映画にした。これがとても面白かったので感想を書いていきます。

『Rey』あらすじ

In 1860, a French lawyer dreamed of becoming the King of Patagonia. And he did just that. Or so it seems.
訳:1860年、一人のフランス人弁護士が、パタゴニアの王様になることを夢見ていた。そして彼はそれを実現した。あるいはそのように思われる。

※imdbより引用

旅の真相は藪の中

深淵の中から、ド・トゥナン(Rodrigo Lisboa)が現れ、「俺は王だ!」と言い放つところから映画は始まる。裁判のシーンに移ると、何故か全員がお面を被っており、暗闇の中でド・トゥナンがいかにしてマプチェ族と出会い、アラウカニア・パタゴニア王国を築きあげたかが回想されていく。

人の記憶は曖昧なものだ。歴史を語る上で重要なのは、事実であり、それを積み上げて歴史が形成されていく。では、真実を積み上げていったらどうなるのか?狂人の頭の中の真実を積み上げていくと、ドンドンと認知が歪んでいき、『ファーザー』のような客観的にみて矛盾だらけの世界が形成されていってしまう。

その事実と真実、そして真実を媒体に生み出される歪んだ真実の違いをNiles Atallahは演出で描き分けている。誰しもが事実を誤って解釈してしまうかもしれない様子をお面を使った裁判で表現する。歴史的にある程度事実に近い部分は、通常の撮影で表現している。一方で、虚実が曖昧になっていくと、傷と退色で覆われた朽ち果てた16mmフィルムの画で物語は進行するのだ。

史実に基づく映画も、映画として翻訳された時点でそれはある真実だ。事実とイコールになることはない。オルリ・アントワーヌ・ド・トゥナンの人生を映画の質感、演出を変えて演出することで、Niles Atallahなりの真実を意識している。一見、気まぐれな前衛映画に見えても、これは歴史映画というジャンルに対して誠実に向きあっているのである。

ここ最近、『イサドラの子どもたち』や『暗くなるまでには』、『二重のまち/交代地のうたを編む』と記憶の継承を扱った傑作と接する機会が多いのですが、本作もそれに肩を並べられる力強さを感じました。

「闇の奥」が好きな方にオススメです。