【ネタバレ考察】『SNS 少女たちの10日間』正義の闇に呑み込まれる者たち

SNS 少女たちの10日間(2020)
V síti

監督:バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
出演:テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハーetc

評価:0点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

2021年4月、あるドキュメンタリー映画が話題となった。

『SNS 少女たちの10日間』である。本作はチェコでSNSを通じた児童虐待が横行していることに対して、監督が少女に見える役者を集めて実情を調査していく内容。3人の女優にスカイプのアカウントを作らせ、心理学者や児童保護センター局員、弁護士といった様々な専門家を配備した状態で、性的目的で迫ってくる男の実態を調査した。その結果、10日間で2,458人もの男たちが彼女たちにコンタクトを取ってきた。終いにはチェコの警察まで出動する騒動となった問題作だ。TwitterやFilmarksでの評判も高いので、あつぎのえいがかんkikiで観てきました。序盤までは強烈な映像のオンパレード、知っているようで知らなかった世界の提示に圧倒された。今年ベストに入るだろうと思った。しかしながら、段々と本ドキュメンタリーが犯した倫理的問題点があまりにも凶悪で一線を超えてしまっていることが気になり始め、評価できなくなってしまいました。本記事では、ネタバレありで本作の問題点について語っていく。かなり強烈な内容なので読む際はお気をつけください。

『SNS 少女たちの10日間』概要

成人女性が未成年という設定のもとSNSへ登録すると、どういったことが起こるかを検証したドキュメンタリー。巨大な撮影スタジオに作られた3つの子ども部屋に、幼い顔立ちの18歳以上の3人の女優が集められた。彼女たちは12歳の女子という設定のもと、SNSで友達募集をする。その結果、彼女たちにコンタクトをしてきたのは、2458人もの成人男性だった。精神科医、性科学者、弁護士や警備員など専門家による万全のケアのもと、撮影は10日間にわたり続けられた。撮影されているとは気付かず、何も知らずに卑劣な誘いを仕掛ける男たち。彼らの未成年に対する容赦ない欲望の行動は徐々にエスカレートしていく。監督は、チェコで活躍するドキュメンタリー作家のビート・クルサークとバーラ・ハルポバー。

映画.comより引用

正義の闇に呑み込まれる者たち

本作は、男性と女性の認識さを埋めるために大きく貢献している。親やClubhouseで本作について議論したところ、女性の多くは「想定内」「この手の話はよく聞く」といった冷静な意見が多かった。一方、私も含め男性の多くが「ここまで凄惨なのか」と驚愕した。これは、女性という属性だけで常に男性から性的な眼差しに晒されており、男性からは理解しているようで理解できていない世界が本ドキュメンタリーで叩きつけられたこととなる。だが、本ドキュメンタリーが単に強烈な映像で社会の闇を告発するだけだったり、男性が本作を用いて食材するだけに留まってしまうのであれば、それはよくないと思う。単に絶賛/酷評するだけでなく、本作で描かれている世界について入念に分析する必要があると感じた。

本作は上記のように、見えているようで見えていない世界を掴み取った功績は評価できる。『アクト・オブ・キリング』や『シチズンフォー スノーデンの暴露』のようにリスクを冒して、我々が見えない世界を捉えたドキュメンタリー同様、リスクを冒して得られたものは多い。また、本作はこの手の「俺が正義だ」とイケイケどんどん前進するドキュメンタリーとは違い、一歩引いている。オーディションの場面から始まり、役者にドキュメンタリーの意図を説明したり、各専門家の意見をヒアリングしながらSNS運用をしている。チャットをする場面では、2人以上で行うようにし、精神負荷を軽減しようとしている。この手のドキュメンタリーにしては冷静であり、ドキュメンタリー映画における倫理面について考慮されている。

しかしながら、結果的に本作は冷静さを失ってしまった。女優が、アカウント作成後からひっきりなしに男性器を魅せられ、卑猥な言葉を投げつけられることで冷静さを失っていくのは分かる。だが、製作陣が冷静さを失ってしまうのは問題だ。あれだけ専門家がいるのに、専門家と一緒に考えた事実を盾に、裸の写真を男たちに送りつけたり、実際に男に会おうとしたりする。そしてスタッフの知り合い、それも子どもキャンプの運営者が児童虐待している証拠を掴んでしまった製作陣が夜な夜な家に殴り込みに行き、言葉による集団リンチを行使してしまう。

天使の復讐』、『プロミシング・ヤング・ウーマン』といったフィクションであればよいのですが、現実でこれをやってしまうのはヴィジランティズムの暴走であり危険だ。自ら正義の鉄槌に酔いしれてしまい、警察を介入させる前に実力行使してしまっており、これはドキュメンタリー映画として一線を超えてしまっていると思う。さらには、製作陣が麻痺してしまっているので、性的行為を要求してこない人に対して聖人のように扱う編集をしていたり、警察沙汰になったことをドヤ顔でアピールしたり、プロファイリングの知識でコンタクトを取ってくる男たちは小児性愛者ではないと断定し始めたり、メンタルケアがプロセスとして描かれていなかったりするので、結局冷静さを装っているようで被害者を増やしているだけにしか見えなかったのが怖かった。

冒頭のオーディションのシーンで、俳優たちが凄惨な過去を語っているのでそこをもっと掘り下げるべきだとは思うものの、「インタビューでは分からない実態を調査する」が目的となっているので、そもそもこの調査自体が間違っていたのでは?とも思ってしまう。だが、この調査がなければ少なくても私はこの凄惨な事実が少し遠い存在であり続けたであろう。だから本作は負の映画遺産として評価すべきである。ドキュメンタリー映画の教科書として重要な教材だと言えよう。

正直、これは専門家の意見を伺いたいところがある。ただの映画ファンが考えただけでは収拾がつかないものが描かれており、決して「子どもはフィルタリングをすり抜けて危険なことをするから気をつけてね」というテロップで結論づけられる内容ではないと言いたい。

※映画.comより画像引用