H-8…(1958)
監督:Nikola Tanhofer
出演:Đurđa Ivezić,Boris Buzančić,Antun Vrdoljak,Vanja Drach etc
評価:80点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
日本未公開映画を紹介するブロガーKnights of Odessaさんが「クロアチア映画史(1896-2000)」、映画ライターの済藤鉄腸さんが「クロアチア映画史の灼熱~Interview with Marko Njegićk」と相次いでクロアチア映画史記事を発表している。両記事で『H-8…』が取り上げられていた。クロアチア映画はほとんど観たことがなかったので挑戦してみました。
『H-8…』あらすじ
In 1957, a careless driver caused a fatal bus-truck collision on the Zagreb-Belgrade highway in Yugoslavia. Witnesses were able to recall only that the driver’s license number began with “H-8.”
訳:1957年、ユーゴスラビアのザグレブ-ベオグラード間の高速道路で、不注意な運転手がバスとトラックの衝突事故を起こして死亡させた。目撃者は、運転手の免許証の番号が「H-8」で始まっていたことしか覚えていなかった。
※MUBIより引用
クロアチアの
うわっ、前から車が!!
マーティン・スコセッシ映画のような、あるいはポール・トーマス・アンダーソン『マグノリア』のような饒舌な語りにまず圧倒される。今やアーロン・ソーキンの爆速脚本術によって、普通にやったら3、4時間かかる内容を2時間に圧縮する技法が確立され、大衆映画でもよく使われる。日本でもアニメでよく爆速饒舌な台詞回しで観客の心を揺さぶる手法が使われる。
クロアチアでは今から半世紀以上も前に既に究極系が出来上がっていた。まず、事件のあらすじが語られる。子連れのトラック運転手とバスの動きが具体的な時間、状況を緻密に積み上げる。ニュース映像に思える具体的な台詞回しはやがてスポーツ実況のような熱気を持ち、早回しで提示される雨天に疾走する二つの車をカットを交差させ激突させる。
映画は、そこから緻密に人間を掘り下げ、この衝突の運命に向かってリピートされる。そこから押し寄せるのは、不穏でふしだらな人間模様だ。バスには曲者が密集している。赤子を連れた女に対して、前の席に座るハゲ親父が執拗に絡む。若い女性がの隣に、酔っ払いが座り込みちょっかいを出す。それを、チャラ男たちが救おうとする。下心丸出しの男たちが女性たちを同時多発的に襲おうとする。これを群像劇として次々に連鎖反応を起こさせていくので、1分たりとも気が抜けない。クズ野郎しか出てこないにもかかわらず、カメラ泥棒をしようとする者が映し出されるとついつい彼を応援したくなる。アルフレッド・ヒッチコック『見知らぬ乗客』に近いいつの間にか観客の倫理観を乗っ取っていく演出が素晴らしい。
一方で、子連れのトラック運転手は、道の駅でおっさんに絡まれ、彼を乗せていく羽目になる。運転中にもかかわらず子どもにちょっかいを出していき、気弱な男のフラストレーションがドンドンと蓄積されていく。
このように右から左から地獄が描かれ、それが正面衝突する。衝突する際には丁寧に、卒業式のように登場人物に哀れみを入れていくナレーションのセンスも加わり、魅力的な一本に仕上がっていました。
日本でリメイクされないかな。
※MUBIより画像引用