ドカベン(1977)
監督:鈴木則文
出演:橋本三智弘、高品正広、永島敏行、川谷拓三、マッハ文朱、山本ゆか里、渡辺麻由美、吉田義夫etc
評価:100点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
近年、日本では漫画の実写化が増えている。少女漫画や激しいアクションが多い少年漫画も次々と映画化されている。だが、20世紀の映画化も負けていないのは声を大にして言いたい。『美味しんぼ』や『課長 島耕作』、『ルパン三世 念力珍作戦』といった珍作が製作された。コアな映画ファンの間では実写化の最高峰は『ドカベン』ではないか?という説がある。『トラック野郎』シリーズでお馴染み、鈴木則文の荒唐無稽さが凄まじいらしい。ここ5年ぐらいずっと探していたのですが、なかなか出会えず悶々としていたのですが、先日TSUTAYA渋谷店で発見しました。しかもDVDであったのです。長年探していただけにこれが大傑作でありました。
『ドカベン』あらすじ
柔道から野球部に転部したキャッチャー・ドカベンこと山田太郎、怪力で三枚目の岩鬼正美、そして野球部主将・長島徹。この三人を中心に、天才的な音楽の才能を持つ殿馬一人、ドカベンのライバル・影丸、賀間、柔道部主将のわびすけ、酔いどれ野球部監督・徳川ら個性豊かなキャラクターが明訓高校で織りなす青春群像劇。甲子園出場を目指す野球部主将・長島が、山田の素質を見抜き野球部に勧誘するも、山田はなぜか弱小柔道部へ。山田にライバル意識を燃やす岩鬼も続いて入部し、柔道部は一気に最強の運動部へと発展するが……。
空前のブームを巻き起こした、水島新司原作の大ヒット野球コミックを完全映画化。主役三人は全国公募で選ばれ、長島徹役に見事抜擢された永島敏行の映画デビュー作でもある。さらには、酔いどれ監督・徳川役を原作者の水島新司が熱演。鈴木則文監督が挑んだエンターテインメント青春映画。
実は漫画と映画は近い
よく映画は演劇の延長として語られ、演劇的からの脱却としての映画論が語られたりする。しかし、実は演劇以上に映画と近いのは漫画である。演劇は、連続する時間の流れを強烈に意識させる。時間の跳躍を描く為には暗転や特殊な仕掛けを行う必要がある。一方、漫画や映画はカットを一つ挟むだけで意味を180度変化させることができる。時間を安易に飛び越えることができる。
鈴木則文監督は『トラック野郎』の時から漫画的荒唐無稽さを意識しており、菅原文太が油に突っ込むと、次の場面ではエビフライになっていたりする描写がある。
そんな鈴木則文監督が水島新司の大人気漫画『ドカベン』に挑んだ。『ドカベン』といっても原作未履修者がイメージする野球シーンは少なく、メインは連載初期の柔道漫画だった頃の『ドカベン』だ。例えるなら、カードで戦わない『遊戯王』を実写で描いている感じだ。
本屋に子どもたちが集まってくる。ドカベン全巻を手にした子ども。店先にはドカベンの看板がある。すると、カッカッカッと山田太郎(橋本三智弘)が走ってくる。カットが切り替わると看板の中の山田太郎はくり抜かれており、漫画から映画の世界にやってきたことを示す。斬新なオープニングから始まる『ドカベン』は失速することを知らない。
学校にやってきた山田は、巨大なガキ大将・岩鬼正美(玄田哲章)に絡まれる。しかし、売られた喧嘩は買わない。土下座をし始める山田に憤怒し、パンチを喰らわせると、ヒョイと交わし、地面に腕がめりこむ。授業が始まると、岩鬼正美は早弁を始める。巨大な弁当箱を開き、高速でご飯を口の中に放りいれ、鯛を骨まで食い尽くすのを早回しで描く。滑稽だ。岩鬼には好きな人がいる。夏川夏子(丸山裕子)に全力を注いでいるのだが、彼女は化粧がケバくお世辞にも美人とは言えない。しかし、彼女にひたすら愛を捧げるところに現在でも耐えうるルッキズムを超えた愛が描かれている。彼女に会う為に音楽室にいく場面に注目していただきたい。彼は、口に加えた木の棒から花を咲かせる程興奮している。チャイコフスキーを流暢に弾き鳴らすのだが、彼は死角で気づかない。チャイコフスキーヲタクの野郎が弾いていることに。長い時間かけて、全然正体に気づかない様子を滑稽に描き、結末として、チャイコフスキー野郎を2km先まで放り投げるオチをつけている。
一方、山田は山田で常に右から左から勧誘や喧嘩を売られていく。それを正面から回避していく。剣道部に喧嘩を売られれば、「僕が力つきるまで攻撃しな。僕が倒れなかったら柔道室は明け渡してくれ。」と交渉をかけ、血みどろの耐久レースが始まる。カット割りで竹刀の崩壊、傷跡の増殖をフレーム内に盛り込んでいくことで事態の壮絶さが観る側にまで伝わってくるのだ。
ハワード・ホークスやジェリー・ルイスに匹敵する豪速球なスクリューボールは、いつしか胸熱なスポーツドラマへと発展していく。柔道の試合。家に監禁されている岩鬼が会場に間に合う為に時間稼ぎをしたり、命の恩人と山田が闘う場面では、相手が片手しか使えないこと、死んだ者の為に闘っていることを知りある決断をするのだが、その人情に涙した。
これは『遊戯王』ファンに観て欲しい。
まるで武藤遊戯とデュエルしたいが為に仲間に加わる海馬瀬人の熱く滑稽なドラマだ。敵は時として味方となり、友情努力勝利の方程式で爆走していく『ドカベン』大傑作ホームランです。