【 #死ぬまでに観たい映画1001本 】『見知らぬ乗客』ヒッチコックはスポ根映画の手本を魅せる

見知らぬ乗客(1951)
STRANGERS ON A TRAIN

監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、ルース・ローマン、レオ・G・キャロルetc

評価:5億点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

「死ぬまでに観たい映画1001本」に掲載されているアルフレッド・ヒッチコック作品『見知らぬ乗客』を観たら、想像を遥かに超える傑作でした。今回はネタバレありで書いていきます。

『見知らぬ乗客』あらすじ


アルフレッド・ヒッチコック監督が、「太陽がいっぱい」で知られるミステリー作家パトリシア・ハイスミスの同名小説を映画化。探偵小説作家レイモンド・チャンドラーが脚色を手がけ、交換殺人を持ちかけられた男の恐怖を描く。テニス選手のガイは、不貞な妻ミリアムと離婚して上院議員の娘アンと再婚することを望んでいた。そんなある日、ガイは列車の中で見知らぬ男ブルーノから話しかけられる。ブルーノはなぜかガイの事情を良く知っており、ミリアムを殺す代わりにブルーノの父親を殺して欲しいという“交換殺人”をガイに持ちかける。ガイは相手にしなかったが、その後ブルーノは本当にミリアムを殺害し、ガイにも殺人を実行するよう付きまとう。
映画.comより引用

ヒッチコックはスポ根映画の手本を魅せる

テニスプレイヤーのガイ・ヘインズ(ファーリー・グレンジャー)は故郷を目指していた。列車に乗ると、何故か目の前の男が気持ち悪い距離感で近づいてくる。

「あんた、ガイ・ヘインズさんですよね。」

ガイ・ヘインズはファンには優しくと最初は取り合っていたのだが、何故か自分が離婚する為に故郷を目指していることを彼が知っていて段々とヤバい奴だと気づく。そしてATフィールドを張るのだが、エヴァンゲリオンさながらブルーノ・アントニー(ロバート・ウォーカー)は破ってくる。昼食まで一緒に取ることになったガイにブルーノは交換殺人を持ちかけ始める。「互いに殺したい奴がいる。俺はあんたの嫁はんを殺すから、俺の親父を殺してくれ。」

当然ながらガイは断るのだが、そんな彼の気持ち御構い無しにブルーノは暗殺を決行する。

この暗殺描写が凄まじい。

ガイの嫁ミリアム(ケイシー・ロジャース)は、自分と離婚して上院議員の娘であるアンと結婚しようとしていることを知っており、金だけふんだくり嫌がらせのように別の男二人と遊園地観光する。アイスを二つも頼む豪快さでイケイケドンドンデートを敢行する彼女の背後にブルーノが聳え立っているのだが、全然群衆に紛れる気がない。遊園地に不釣り合いな黒づくめの格好で、通りのど真ん中に立ち彼女を見つめる。当然ながら、彼女は「ストーカーされているな」とチラチラ見始めるのだが、ふと気がつくと真横にブルーノがいる。トム・ハンクスとビル・マーレイを足して二で割ったような、悪の要素希薄な顔をしたロバート・ウォーカーは、その不敵な笑いと立ち位置で観客まで恐怖のどん底に陥れるのだ。あまりに堂々とした追跡、0地点でストーカーする様子にゾワゾワさせられます。回転木馬に乗れば、男二人と歌い狂う彼女に合わせてブルーノも熱唱したり、ボートで崖に逃げてもついてくるのだ。そして遂に時は来た。彼女は殺されるわけだが、面白いことに眼鏡の反射越しに暗殺が描かれるのだ。このシークエンスだけでヒッチコックの本気度が伺える。

何もしていないし、アリバイもないガイであったが、冤罪で逮捕されるのではという不安と彼にまとわりつくブルーノがドンドン最悪な展開に転がっていく。その不穏の魅せ方は黒沢清に影響与えたであろう。モブキャラの動かし方が現実離れしていて、気持ち悪さを際立たせている。

例えば、テニスの練習をする場面。群衆は右左に球を追いかける。綺麗にシンクロする様子にどこか不気味さを感じるのだが、よく見ると休憩するガイをジッと見つめているブルーノがいるではありませんか。群衆以上に気持ち悪くショッキングだ。ブルーノはねっとりと、ガイのコミュニティまで侵蝕してくる。サロンでマダムに殺人論を語り始めて迷惑極まりないのだが、ミリアムに似たメガネ女子バーバラ・モートン(パトリシア・ヒッチコック)を見ると殺人の残像が眼鏡に映り込み、取り憑かれたようにマダムを絞め殺そうとする。このタチの悪さの表現はそこらへんのホラー映画以上に怖いのだ。

ここまで怖い怖いと話して来たのだが、実はこの映画最大の見所はテニスの試合である。サスペンスの帝王ヒッチコックでありながら、試合の魅せ方の見本を提示している。ブルーノを捕まえる為に、とっとと試合を終わらせる必要があるガイはアグレッシブに敵に豪速球の球を返す。解説者のセリフを通じて、いかにガイが通常と違ったプレイをしているのかが共有された状態で固唾を飲みながら試合を見守る。序盤は、圧倒的パワーで敵を蹴散らすのだが、敵も敵でしぶとく球を返し始め、終盤は一進一退の攻防に発展していく。まるでホンモノの激アツ試合を観ているような興奮があるのだ。時計のカットを挟むことで時間の経過と緊迫感を強調する。その裏では、試合が長引いていることに配慮してアン・モートンたちがこっそりタクシーを呼び脱出準備を企てる。試合が終わると、ダッシュで遊園地に向かうのだが、ここでもサービス精神旺盛なヒッチコックはブルーノが排水溝に落ちたライターを拾うサスペンスを交差させていく。このまま、映画史上最も壮絶な回転木馬での死闘に発展していく。

徹頭徹尾エンターテイメントに徹しており、恐怖と面白さに興奮しっぱなしな作品でした。

そういえば、回転木馬の下の部分を使ったアクションは『トイ・ストーリー4』で引用されてましたね。

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