【MUBI】『ヒッチ・ハイカー』その男、凶悪につき

ヒッチ・ハイカー(1953)
THE HITCH-HIKER

監督:アイダ・ルピノ
出演:エドモンド・オブライエン、フランク・ラヴジョイ、ウィリアム・タルマンetc

評価:95点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

アイダ・ルピノをご存知だろか?

彼女は1950年代にハリウッドで活躍した唯一の女性監督である。13歳で女優の道に進んだ彼女であったが、ベティ・デイヴィスの二番煎じと評価されて不満を抱いた彼女は脚本を書くようになる。『NOT WANTED』でエルマー・クリントン監督の右についていたのだが、彼が撮影3日目に心臓発作で倒れた為、監督業を引き継いだことがきっかけで生涯に7本の映画を撮った。そんな彼女の代表作『ヒッチ・ハイカー』がMUBIで配信されていたので観ました。気弱な男が2人の女性と結婚し行き来する修羅場を描いた『二重結婚者』に比べると、男性的パワフルさに満ち溢れる作品となっており、女性監督による映画という枠組みを超えた重厚なスリラーとなっていました。

『ヒッチ・ハイカー』あらすじ


Two fishermen pick up a psychotic escaped convict who tells them that he intends to murder them when the ride is over.
訳:二人の漁師は、彼は乗り物が終わったときに、彼はそれらを殺害するつもりであることを告げる精神病の脱獄囚を拾う。
imdbより引用

その男、凶悪につき

そろりそろりと揺らめく男、彼の前で一台の車が通りかかり、彼を連れていく。次のシーンでは、警察官が無残に殺された者を眺めている。これだけで、この映画の粗筋が語り尽くされる。言葉はいらない。「起」と「結」を画で魅せることで、観客にワクワクを与え、プロセスの中に潜む果実に対する好奇心を呼び起こす。主人公は仲良し二人組だ。夜道を運転する。途中で歓楽街に差し掛かるものの、相棒が寝ているのでそのままスルーして道を走らせる。そこに人が現れ、隣町まで乗せることにする。

車を走らせている二人だが、乗せた男の顔はドス黒い影に隠れて見えない。相棒が、声をかける。すると銃を携え、男の顔がぬぅと現れる。男二人、それも図体が大きい二人組に対して犯罪者一人。あまり緊張感ない組み合わせなのだが、これがとてつもなく怖い。それは、この犯罪者の仕草が洗練されており、自然と狡猾な動きを魅せるからだ。例えば、二人組にトランクを開けさせる。そこにはライフルが入っているのを確認する。すると荒野で、車を止めさせて、ウィリアムテルごっこをさせるのだ。ライフルの銃身は長いので、射程距離に入らない、利き手と反対方向の左側後方からピストルを向ける。これで銃弾を消費させるのです。また、通りかかりが現れると、彼の死角から銃を構えた、二人組に応対させるのだ。

夜になれば逃げられると思いきや、そう簡単にはいかない。なんと犯罪者は、片目睡眠ができ、左目はくわっと見開きながら、右目は熟睡している。勝ち目がない状況を説得させる画だけを紡いでいくのです。生かさず殺さず、逃げ切ろうとする犯罪者。完全に力関係を掌握した犯罪者は段々と油断し始め、それが突破口となっていく。涙目になりながら逃げる二人組、そして決戦の舞台は闇が支配する空間。

虫の音ひとつしない空間で、ジリジリと焦燥が高まるなか、決戦の火蓋が切られる場面がとてつもなくカッコいい。

アイダ・ルピノは『二重結婚者』も面白かったので追っていきたい監督でした。次は、レイプ問題に斬り込んだ『Outrage』かな。

余談ですが、田中絹代はアイダ・ルピノ監督と出会ったことをきっかけに監督業を目指すようになり成瀬巳喜男に弟子入りし、『恋文』を撮りました。坂根田鶴子に次ぐ日本で二番目の女性監督になったのです。

※imdbより画像引用

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