名もなき歌(2019)
原題:Canción sin nombre
英題:Song Without a Name
監督:Melina León
出演:Pamela Mendoza、Tommy Párraga、Lucio Rojas、Ruth Armas、Maykol Hernández etc
評価:40点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
第72回カンヌ国際映画祭監督週間で上映されて話題になったペルー映画『Canción sin nombre』を観ました。Melina León長編デビュー作である本作は1988年実際に起きた赤ちゃん誘拐事件を基にしています。FILM MAMMAのインタビュー記事によれば、彼女の父であるジャーナリストが本事件を追っている中、誘拐された者が彼にコンタクトを取ってきてそれに同行したことが映画製作のきっかけになったとのこと。そして10年近い歳月をかけて本作は生み出されました。そんな『Canción sin nombre』について書いていきます。
※2021年7月31日より邦題『名もなき歌』として公開決定
『Canción sin nombre』あらすじ
Georgina’s newborn daughter is stolen at a fake health clinic. Her desperate search for the child leads her to the headquarters of a major newspaper, where she meets a lonely journalist who takes on the investigation.
訳:Georginaの生まれたばかりの娘が、偽の保健所で盗まれた。彼女の必死の捜索は、大手新聞社の本社にたどり着き、そこで孤独なジャーナリストと出会い、捜査を引き受けることになる。
※imdbより引用
赤子を産みにやってきた母、しかし診療所ごと蒸発し、、、
ペルーの無形文化遺産であるハサミ踊りを魅せるところからこの映画は始まる。監督はmoveablefestのインタビュー記事で希望を最初に示し、アンデス文化の美しさとアンデスの人々の強さをバランスよく描きたかったと語っている。ただ、インタビューを読む限り、何故「ハサミ踊り」なのか?という点において、ペルーの文化だからというイメージが強くワールドシネマとして世界に媚びている感じが強い。日本では研究者が少なく、理論化があまりされていないようなのですが法政大学国際文化学部准教授・佐々木直美の論文「ペルーの無形文化遺産「ハサミ踊り」に関する歴史的考察」によれば、ハサミ踊りの解釈の一つとして
では,「鋏」はどんな意味を持っていたのだろうか。鋏がペルー史に初めて登場するのは,征服者フランシスコ・ピサロと同時である。つまりスペイン人到着以前,鋏はアンデス文明には存在しなかった。ピサロは,スペインから持ち込んだナイフや鏡とともにインカ王への贈り物として鋏も渡していた。踊りの意味はそれが踊られるコンテクストの中で解釈すべきであると先に述べたが,そうであれば,カルロス四世の戴冠記念祝賀祭で登場したハサミ踊りは鋏をもたらしたことへの感謝,あるいは鋏を持つ文明への敬意の表明とも考えられる。そこから次第に楽器としての役割が発達し,より良い音を奏でるためにバラバラにされたと考えることもできるだろう。ハサミを打ち鳴らして響かせる金属音は,先コロンブス期のアンデス文化において用いられた鈴やガラガラのような楽器や装身具(13)の効果音が持つ魅力と類似している。ヨーロッパからもたらされた刃物である鋏をあえてバラバラにして,楽器として新たな意味づけを行ったアンデスの民の想像力・創造力こそがハサミ踊りの魅力であろう。
と分析されている。とするならば、出産との関連でハサミ踊りを提示するのは単なる飾りとなってしまう。もちろん、ペルー出身監督の方がハサミ踊りに詳しいのは明確であるのだが、インタビューを追っても特にこれといった説得力のある発言は見つからなかった。では表層的に分析した場合、どうだろうか?こちらも、誘拐された子どもを探すというシンプルな話を魅力的に描くための子供騙しににしか見えなかった。
さて、映画の深部に迫っていこう。
ジャガイモを大量に仕入れ売る女Georgina(Pamela Mendoza)は、出産を間近に控えて今にも苦しそうだ。遂に、診療所に行く段階になりバスに乗るのだが、気分が悪そうだ。彼女はヨロヨロと霧がかったペルーの大地を歩く。彼女の孤独を表彰するかのように丘が聳え立っている。やっとの思いで診療所に辿り着き、命の誕生の瞬間を目の当たりにするのだが、目を覚ますと、誰もいない。彼女は「赤ちゃんを返して」と扉を叩くが、虚無が木霊するだけであった。
彼女は、誘拐事件として捜査を依頼しようにも、出生届も何もない状態なので相手にされない。貧しき女性に目をかける人はいないのだ。慟哭する彼女は出版社に殴り込みに行き、そこでジャーナリストのPedro(Tommy Párraga)と出会う。彼は彼女と共に、冷徹な軍や上司と闘いながら少しずつヒントを集めて行く。やがて、赤子を誘拐する事件が多いことに気が付いていくのだ。
クラシックな画の切り取りで、ペルーの赤ちゃん誘拐事件を鋭く洞察する。その目線自体は面白いのだが、いかんせん映画として捻りが少なく、その弱さをワールドシネマ的媚び売りで誤魔化してしまったところが非常に痛い作品でした。
ひょっとしたらハサミ踊りやワールドシネマ的演出に深いものが隠されているかもしれませんが、自分が観た限りよくわかりませんでした。
※thegurdianより画像引用
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