【考察】『エマ、愛の罠』卵子の火球、精子なダンサー

エマ、愛の罠(2019)
Ema

監督:パブロ・ラライン
出演:マリアーナ・ディ・ジローラモ、ガエル・ガルシア・ベルナル、パオラ・ジャンニーニetc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

No』、『ザ・クラブ』、『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』と力強い作品を発表し続けるチリの鬼才パブロ・ラライン新作はコンテンポラリーダンスを主軸に置いているという意外な作品に仕上がっている。そんなことを聞いて観ないわけにはいかない。というわけでヒューマントラストシネマ渋谷で観てきました。

『エマ、愛の罠』あらすじ


「ジャッキー ファーストレディ 最後の使命」「NO」などで知られるチリのパブロ・ラライン監督が、1人の女性の奔放な愛の姿を大胆に描いたドラマ。ダンサーのエマは、ある事件をきっかけに心の拠り所を失ってしまった。 振付師である夫との結婚生活は破綻した彼女は、その妖しい魅力を武器に実直な消防士、さらに彼の妻までをも虜にしてしまう。不可解なまでに奔放なエマの行動。その行動の裏には衝撃的なある秘密が隠されていた。主人公エマ役を新人のマリアーナ・ディ・ジローラモ、夫のガストン役を「モーターサイクル・ダイアリーズ」「バッド・エデュケーション」「バベル」のガエル・ガルシア・ベルナルがそれぞれ演じる。2019年・第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品。
映画.comより引用

卵子の火球、精子なダンサー

パブロ・ラライン新境地はメタファーにメタファーを重ね合わせる作品であった。それ故にスクリーンをよく観ていないと肩透かしを食らう内容になっている。肩透かしになる要因はダンスの切り取り方があまり上手くないことが致命傷になっている。『Girl/ガール』や『ダンサー そして私たちは踊った』もそうだが、LGBTQ映画とダンスを組み合わせた作品はテーマの特性上高評価を得やすい作品になっているものの、ダンスの切り取り方が下手な傾向がある。体全体で表彰しているものを、登場人物の表情に注視するあまり、杜撰に下半身の動きを切ってしまいがちだ。一方で『ミッドナイトスワン』は全体の動きと手や顔のクローズアップの塩梅がすこぶる良かった。『エマ、愛の罠』は残念ながらMV風の演出でごまかしているが、上半身に執着し過ぎで尚且つ曲の途中でドラマパートに切り替える演出がダンスの魅力を半減させているように見えた。

だが、本作における閉塞感描写としてのダンスの置き方は非常に興味深いものがある。冒頭、火球を前に白い服を着たダンサーが前衛的なダンスを踊るのだが、本作のテーマを見ればわかる通り、これは卵子と精子のメタファーとなっている。大きな火球は当然ながら卵子を表し、ダンサーは精子である。だが、卵子と精子の関係は弱肉強食であり、大きな卵子に向かって精子が蹴落とし合いの戦いを繰り広げる。そのメカニズムを踏まえると、ダンサーの動きは一人を際立たせて周囲が蹴落とし合うものになるはずが、どうも協調を表現するようなものとなっている。つまり、本作は社会の息苦しさを共有することで克己しようとすると生き様をメタファーとして描いているのだ。

主人公のエマ(マリアーナ・ディ・ジローラモ)は、子どもが放火し、母親としての資格を失ったことに絶望している。夫のガストン(ガエル・ガルシア・ベルナル)は不能であり子どもを授かることができないので養子を迎え入れたのに、その息子が放火したらしい。学校でダンス教師をしていたエマだったが、息子もその学校に通わせていたため、教師陣の同調圧力に耐えきれず学校を出る。そんな彼女の苦悩をガストンは分かりもしない。責任を取ろうとしないことに憤りを感じ、仲間と彼の元を離れて自分たちのダンスを踊ろうとする。

評価を得た、舞台でやるダンスと下品なストリートダンスを退避させる。舞台でやるダンスは綺麗だ。しかし、箱や型にダンスが押し込めてられているので抑圧的だ。彼女たちはそんなダンスから解き放たれて、ストリートダンスに身を投じることで自由を得ようとする比喩的表現の新奇性に感銘を受ける。そして、自由を得た彼女には常に仲間がいる。女性搾取する社会に対して、社会の陰日向にいる女性が群れをなして自己アピールする。一方で、マイノリティが団結した時の暴力性も批判的に描いていて、それが火炎放射に表れている。孤児の火炎放射を社会から除け者にされた女性たちも継承する。暴力に悲しむ者が暴力を手にした瞬間を捉えているのだ。

こう考えるとどうでしょうか?階段を使って階級差を表現したあの終盤から、怒涛の超展開を迎え、異様な子育て描写に着地する本作の心理は、上記のメタファーを繋ぎ合わせると腑に落ちるものとなるでしょう。南米映画的ドロッとした感触のクセが強く好き嫌いは如実に分かれる作品であるが、社会問題をダンスで表象するに長けた佳作と言えよう。

MUBIより画像引用

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