『いつかの君にもわかること』おくりだしの作法

いつかの君にもわかること(2020)
NOWHERE SPECIAL

監督:ウベルト・パゾリーニ
出演:Bernadette Brown, Chris Corrigan etc

評価:85点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

毎年、festival scopeではヴェネツィア国際映画祭作品をオンライン配信しており、日本からでも6$で最新の作品を楽しむことができます。今年のヴェネツィア国際映画祭は、コロナ禍でのブランド維持を意識しているためかいつにも増して作品選定にキレがあり、コンペティション部門の批評家評は全体的に高い水準となっている。それはオリゾンティでも同様であり、今回幾つかの作品を観賞したのだが総じて面白かった。その中でも一番オススメな作品『NOWHERE SPECIAL』についてお話しよう。本作は、2015年の始めに日本公開されたにもかかわらずキネマ旬報ベスト・テンに選出された『おみおくりの作法』ウベルト・パゾリーニ7年ぶりの作品です。既にキノフィルムズが配給権を買っているそうで来年の秋以降に日本公開(雰囲気的にTOHOシネマズ シャンテ、シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷あたりで観られそうだ)されると思われます。

※2023/2/17(金)邦題『いつかの君にもわかること』で公開決定!

『いつかの君にもわかること』あらすじ


John, a 35-year-old window cleaner, devotes his life to raising his 4-year-old son Michael, as the child’s mother left them immediately after his birth. Their life is a simple one, made up of universal daily rituals, a life of complete dedication and innocent love that reveals the strength of their relationship. But John only has a few months to live. Since he has no family to turn to, he will spend the days left to him looking for a new and perfect one to adopt Michael, trying to protect his child from the terrible reality.
訳:35歳の窓拭きのジョンは、生後すぐに母親に捨てられた4歳の息子マイケルを育てることに人生を捧げていた。彼らの生活は、普遍的な日常の儀式で構成されたシンプルなものであり、完全な献身と無邪気な愛で構成された生活は、二人の関係の強さを物語っています。しかし、ジョンの余命はわずか数ヶ月。彼には振り向いてくれる家族がいないので、彼に残された日々は、恐ろしい現実から子供を守ろうとして、マイケルを養子にするための新しい完璧なものを探して過ごすことになります。
※第77回ヴェネツィア国際映画祭サイトより引用

おくりだしの作法

『おみおくりの作法』が《生》のドラマだったのに対して、本作は《死》と向かい合った作品となっている。

多くの作品は《死》と対峙する際に、泣いたり叫んだりしてしまう。しかしながら、本作は「泣いている時間などない」状況に追い込まれた者の終焉を静かに見つめている。前作に引き続き、新聞記事から着想を得て製作されている。主人公の男ジョンは35歳、仕事は窓拭き清掃。妻には出ていかれ男手一つで愛する息子マイケルを養っている。そんな彼には、秘密があった。それは余命僅かだということだ。頼れる家族がいない彼は、自分がこの世を去った後にマイケルが快適に暮らせるよう役所に行って養子縁組の手続きをすることを決意する。役所の人は親切にアドバイスをする。人に会えば、「あなたは勇敢な男だよ。」と励まさせるが、時間のない彼にとってそんな言葉は薬にならない。どこか表面的な態度にフラストレーションと孤独を募らせていくのだ。そして、思うように養子縁組は進まない。ある家にマイケルを預けてみるものの、仕事から迎えに戻れば、何故か椅子の下でうずくまっている。家族は、迎え入れてくれる姿勢をみせてくれているのだが、果たしてこの家庭でマイケルはやっていけるのだろうか?そんな不安が、話をこじらせてしまうのだ。また、ジョンは4歳物心つく前のマイケルに自分の死やその後の生活を伝える勇気がない。残された時間でマイケルと接することで、彼を癒すことしかできない。そんな彼には涙をする余裕すらないのである。マイケルに悟られないようにバーへ行き、隅っこの陰りでビール片手に思い悩む彼に胸が締め付けられます。

ウベルト・パゾリーニ監督は、下手に音楽や泣き叫ぶシーンを挿入してお涙頂戴に持っていくような真似はしない。ひたすら、自分の人生の終焉と向き合う姿を捉えている。そして、何年か後に全てを知ることになるだろう息子に向けた《おくりだしの作法》に注力している。他人に人生の重みを託すことのできない、不器用な男が、せめて息子だけには幸せになってほしいと願うこの道中は魂揺さぶられるものがありました。

参考記事

Uberto Pasolini • Director of Nowhere
Special(cineuropa,2020/9/11,Marta Bałaga)

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