『喜劇 愛妻物語』「これはシナリオではありません、ストーリーです」すら起きない

喜劇 愛妻物語(2019)

監督:足立紳
出演:濱田岳、水川あさみ、新津ちせ、夏帆etc

評価:65点

おはようございます、チェ・ブンブンです。

第32回東京国際映画祭で脚本賞を受賞した『喜劇 愛妻物語』を観てきました。本作は、『百円の恋』、『お盆の弟』、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』といった名作を残している名脚本家・足立紳の自伝的小説『乳房に蚊』の映画化である。タイトルは新藤兼人のデビュー作にして自伝的作品『愛妻物語』にぶつけたものとなっています。足立紳は『お盆の弟』の頃から応援している監督なだけに初日に観てきました。

『喜劇 愛妻物語』あらすじ


「百円の恋」の脚本家・足立紳が2016年に発表した自伝的小説「乳房に蚊」を、自ら脚本・監督を務めて映画化。売れない脚本家・豪太は、妻チカや娘アキと3人で暮らしている。倦怠期でセックスレスに悩む豪太はチカの機嫌を取ろうとするが、チカはろくな稼ぎのない夫に冷たい。そんなある日、豪太のもとに「ものすごい速さでうどんを打つ女子高生」の物語を脚本にするという話が舞い込む。豪太はこの企画を実現させるため、そしてあわよくば夫婦仲を取り戻すため、チカを説得して家族で香川県へ取材旅行に行くことに。しかし、取材対象の女子高生はすでに映画化が決まっていることが判明。出発早々、旅の目的を失ってしまう3人だったが……。夫・豪太を「決算!忠臣蔵」の濱田岳、妻・チカを「後妻業の女」の水川あさみ、娘・アキを「駅までの道をおしえて」の新津ちせがそれぞれ演じる。19年・第32回東京国際映画祭のコンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞。
映画.comより引用

「これはシナリオではありません、ストーリーです」すら起きない

新藤兼人は下積み時代に溝口健二に脚本を見せた際、「これはシナリオではありません、ストーリーです」と言われショックを受けたそうだ。そのエピソードはデビュー作『愛妻物語』に盛り込む程彼にとって強烈なエピソードであった。さてあれだけの巨匠ですら下積み時代は辛酸が流れる轍だったのだから足立紳の轍は壮絶だった。その苦汁を自虐的にユーモラスに本作では消化されている。

主人公・豪太は売れないシナリオライター。年収たった50万円。到底、妻や娘を養うことはできない。なので収入は妻頼りである。そのせいか、ここ10年ずっと倦怠期であり、合体の一つすらさせてもらえない。声をかけるだけで暴言を吐かれてしまう。そんな彼に、2本のプロジェクトが軌道に乗ってくる。その一つである「ものすごい速さでうどんを打つ女子高生」を取材しに、なんとか妻を説得して香川へ行くことなるのだが、その道中から修羅場修羅場のつるべ打ちとなる。満員電車に悲鳴を上げる。娘は疲れを訴え、寂れたうどん屋に入るが塩対応される。ホテルは節約のためにシングルを予約。妻は壁をよじ登って後から合流しようとする。

折角の家族旅行なのに常時フラストレーションが蓄積されていがみ合うのだ。しかし、豪太の内弁慶なクズさ、肉欲は改善されることなくさらにガソリンを注いで全てを台無しにしていくのだ。

本作は、クズ男の徹底したクズっぷりが描かれるのでフラストレーションが溜まるでしょう。しかし、そのクズが生まれる社会的環境がしっかり描かれているので、妙に憎めない。彼は底辺フリーなのだ。底辺フリー故に取引先にはどんな理不尽ですらいい顔をしないといけない。取引先は企業なので、たとえ相手が企画を失注しても痛くも痒くもない。しかし、その飛び火を食らう底辺フリーには生死にかかわる問題なのだ。新藤兼人の時代とは違い、「これはシナリオではありません、ストーリーです」みたいな意見すらもらうことなく底辺は切られていくのです。この家族のまわりにいる人は比較的成功している。その差に嫉妬と憎悪が渦巻き、それが暴力に現れてくるのだ。だが、どんなに喧嘩しても心の奥底では繋がっている。それをあるアイテムを使って象徴させていくのだが、それが中々上手い。

足立監督は2016年に東京国際映画祭で上映された『14の夜』Q&Aでお話ししたことがあるのですが、ここまで大変な轍を歩んでいたということに驚きである。また知人曰く、本当に彼のパートナーは映画通りの人とのことで少し会ってみたくなりました。

※映画.comより画像引用

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