恐喝(ゆすり)(1929)
BLACKMAIL
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:アニー・オンドラ、サラ・オールグッド、チャールズ・ペイトンetc
評価:65点
おはようございます、チェ・ブンブンです。
『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』を読んでいるのだが、ヒッチコックの饒舌な語りが面白くてヒッチコックアレルギーが治りそうなこのところ。さて、本書の『恐喝(ゆすり)』のエピソードがかなり面白い。本作はサイレント映画からトーキーへと切り替わる激動の時代に製作された。1927年に『ジャズ・シンガー』が一応の世界初のトーキー映画として話題となった。しかし、『ジャズ・シンガー』は大部分がサイレント映画であるパートトーキーの作品であった。この頃は、技術的な部分もありパートトーキーが謳い文句にされていたのだが、いつオールトーキーになってもおかしくない状態であった。その不安定な映画界事情故、『西部戦線異状なし』は途中からオールトーキーに舵を切り製作された。『恐喝(ゆすり)』はその時代の作品故にサイレント版とトーキー版がある(Amazon Prime Videoにあるのはトーキー版)。製作当初は最後のリールだけトーキーにするパートトーキーでの製作であった。ヒッチコックはそれに反対してトーキーのテクニックで撮影し、一部は撮り直しを行った。また本作では様々な技術的苦労があり、例えばアフレコが当時できなかった為、撮影に合わせてヒロインの声だけ演じる女優にセリフを言わせたり、また大英博物館での追跡シーンでは光量が足りなかった為、シェフタン・プロセスという方法を採用。薄いガラスに銀メッキした代物をカメラ前45度の角度で取り付けたりと様々な工夫の上にできた作品だ。
そんな本作をAmazon Prime Videoで実質無料で観られる。凄い時代になったものだ。『死ぬまでに観たい映画1001本』映画なので挑戦してみました。
『恐喝(ゆすり)』あらすじ
イギリス映画界初のトーキー映画となる、アルフレッド・ヒッチコック監督によるサスペンス作品。恋人である刑事フランクと喧嘩したアリスは、偶然知り合った画家の男に誘われるがまま、彼の家について行く。ところが、男に襲われそうになったアリスは、誤って男を殺してしまう。捜査の中でアリスが犯人だと気づいたフランクはとっさに証拠を隠すが、事件の真相を知った男が2人を恐喝するようになり……。
※映画.comより引用
ヒッチコック初のトーキー映画
本作の始まりはサイレントである。刑事2人組が敵を追い詰めに部屋にやってくる。敵は新聞を読んでいるが、彼の横には銃がある。刑事の顔と、敵の手つきを巧みに描き分ける。刑事の無表情に手汗にぎる無言の攻防が見え隠れする。そして、バッと飛び出し、敵を仕留めるのだ。そして映画はトーキーに変わる。刑事は些細なことで恋人と喧嘩をしてしまう。
彼女は、情緒が不安定となるのだが、そこに男がつけ込む。そして男に襲われそうになった女は殺人を犯してしまう。ヒッチコックは情緒不安定を描くのに長けているのだが、『めまい』や『サイコ』の原型はすでにここにある。自分の殺人と、男に襲われた現実がトラウマとなり彼女に襲いかかる。彼女の孤独を、閑散とした道の端を歩く様子で象徴させ、突然、それも何度も挿入される死んだような手が彼女のフラッシュバックの痛さを強調する。そして、挙動不審で常に怯えている彼女とそれを取り巻く攻防戦が物語に魅力を持たせる。
本作では縦の移動にも拘りを魅せており、階段を上る様子をエレベーターのような動きで捉え、また大英博物館での逃走劇は、巨像の横に垂れたロープを降りる動作でダイナミックに魅せている。ヒッチコックのアイデア図鑑として見所満載な為、確かに『死ぬまでに観たい映画1001本』に掲載されるのも納得である。
尚、『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』を読んだ後に本作を観ると少しイマイチに感じてしまう。なぜならばヒッチコックが当初考えていた結末があまりに傑作だからだ。ゆすり屋が死んだ後に、娘が逮捕される。若い刑事が彼女相手に冒頭同様淡々とした事務作業で彼女を処理していく。事情を知らない同僚が「今夜も彼女とデートかい?」と声をかけるのだが、「今夜はまっすぐ帰ります」と言って映画は終わるというもの。最初の展開を微妙にズラす。ヒロインが、ヒロインからただの人に変わるところで終わるというテクニックのヒッチコックらしいバッドエンドを知ってしまうと本作の生ぬるいクライマックスには不満が残るのです。
P.S.アルフレッド・ヒッチコックは映画よりも語りが面白いというのは秘密である。
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